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スポーツのツボ ~アスリートが推す『観戦を10倍楽しむコツ』~【第12回】中国電力陸上競技部 ・久保出雄太

プロ野球、Jリーグ、Bリーグをはじめ、多くのトップスポーツチームが活躍する広島県。スポーツの持つ力で県民を盛り上げようと立ち上がったのが、広島横断型スポーツ応援プロジェクト『Team WISH』です。Team WISHは、広島のトップスポーツチーム・アスリートの魅力を発信し、スポーツを通じて広島の皆さんにワクワクを届けるため、日々、競技・チーム・選手の魅力を発信しています。

本連載では「Team WISH」の25チームの選手・関係者がおすすめする、「ココさえ押さえておけば、初めての観戦でも楽しめる!」、そんな観戦ポイントをご紹介します!アスリートの目線で語られる、新たなスポーツの楽しみ方。観戦が10倍楽しくなる『スポーツのツボ』をぜひ覗いてみてください。

連載12回目の今回は、広島県を拠点に活動中する中国電力陸上競技部から、加入1年目の久保出雄太(くぼで・ゆうた)選手が登場。陸上競技デビューは高校2年という異色のキャリアながら、わずか4年後、城西大学3年時には憧れの大舞台・箱根駅伝に出場。チーム歴代最高位の総合3位に貢献した久保出選手に『駅伝観戦を10倍楽しむツボ』を聞きました!

一般入試、同好会からのステップアップを経た箱根駅伝へのいばらの道

―この連載では広島で活躍するアスリートのみなさんに、観戦がより楽しくなる『スポーツのツボ』をお伺いしています。今日は、久保出選手が思う『駅伝のツボ』をお伺いできればと思います。  

「はい!よろしくお願いします。」

―まずは久保出選手の競技キャリアからお聞きしたいのですが、元々はサッカー部で、高校生の時に陸上部に転部したそうですね。

「そうですね。サッカー部の時から足は速くて、校内のマラソン大会で歴代1位の記録を出したこともありました。周りからも陸上を勧められたこともあって、高校2年生の時に本格的に陸上を始めたんです。出場した大会でもどんどんタイムを更新できて、『これは本気で取り組むべきなのではないか』と感じるようになったのも、その頃ですね。」

― 久保出選手は石川県出身ですが、地元を離れて埼玉県の城西大学に進まれたのは、なぜでしょうか。

「高校3年生の10月に、これで陸上は最後にしようと思って出場した駅伝の大会で、悔いの残る結果に終わってしまいました。そこで、このままでは終われないというか……『やっぱりやるからには、大学へ行って箱根駅伝に出たい』という気持ちが強くなったんです。箱根駅伝出場校のユニフォームを見ていて、『これを着て箱根を走れたら頑張れそう』と感じたのが城西大学でした。自分でチームの事務局に問い合わせをしたら、偶然、駅伝部の五十嵐真悟コーチが電話に出てくださったんです。すでにスポーツの推薦入試は終わっている時期でしたし、そもそも僕の成績では推薦は厳しかったのですが、電話口で駅伝部に入りたいという熱意を伝えると、『すぐに駅伝部に入るのは難しいけれど、陸上競技同好会から部に入った人はいるよ』を教えていただけたので、一般入試で入学してまずは同好会に所属しました。」

―陸上競技同好会時代は、駅伝部に入るためにとにかくアピールをし続けたそうですね。

「はい。グラウンドや競技用トラックの使用は駅伝部が優先だったのですが、同好会の練習開始前にグラウンドに行って目立つ場所でウォーミングアップをしたり、駅伝部の櫛部静二監督の前をわざと通って挨拶したり……そういうアピールを続けましたね(笑)。監督の授業やゼミを取って積極的に質問もして、とにかくコミュニケーションを取り続けました。その甲斐あってか、1年生の10月後半から駅伝部の練習に参加できるようになったんです。」

―念願の陸上部に参加できるようになったわけですが、他の部員はずっと駅伝一筋という人たちばかりですよね。カルチャーショックはありませんでしたか。

「約1年、命がけの練習をしてきたつもりでしたけど、練習のボリュームやキツさが同好会とは桁違いでした。それをみんな当たり前にやっているので、やっぱり差はあるなと痛感しました。ただ、練習でどれだけ離されてもミスをしても、大会では絶対に負けないと決めて取り組みました。そのおかげで2年生の時に出場した大会では1位を取ることもできましたし、記録も順調に更新することができたんです。」

―3年時の2024年には、念願の箱根駅伝で出場メンバーに選ばれています。久保出選手は6区に出場し、城西大学は過去最高順位の総合3位に輝きましたが、一方でふるさとの石川県は元旦に最大震度7を記録した能登半島地震に襲われました。

「もちろん、箱根駅伝に出場できたことも、チームが3位入賞したこともうれしかったです。ただタイミングがタイミングだったので、監督をはじめとするチームのみんなからはすごく心配されました。僕の家族は箱根駅伝の応援のために関東に来ていたので被害を免れていたのが、不幸中の幸いだったのかなと思います。大会が終わってからは地元の友達や知り合いからのメッセージが止まらなくて、自分以上に周りが喜んでくれていることに『すごいことをしたんだ』と感じました。大変な状況のなかでも地元の友達が見てくれていて、『俺も頑張ろうと思った』と言ってくれて……。ただ、サッカー部時代しか知らない友達は『なんで久保出が箱根駅伝を走ってるの?』と驚いていましたけど(笑)。」

―4年生でも箱根駅伝に出場し、この春、城西大学を卒業されました。中国電力陸上競技部(以下、中国電力)に入られた理由は何ですか?

「大学の先輩である菊地駿弥さんと野村颯斗さんがいることと、櫛部監督に『マラソンをやった方がいい』と言われたことが大きかったですね。自分ではスピードランナーと思っていたのですが、距離が長くなるほど楽しく走れるタイプでもあります。監督もそのことに気づいていて、フルマラソンなら日本一を取れるのではないかと言われたので、その言葉を信じてマラソンの実績がある中国電力への入部を決めました。中国電力で監督をされている佐藤敦之さんが城西大学まで会いに来てくれたこともあり、このチームで恩返しするしかないと感じたことも理由の一つです。」

現地観戦の際は名前を呼んで応援してください。手を振って応えます!

―久保出選手が考える陸上競技、特に駅伝の魅力はどんなところですか。

「タイムの『上げ下げ』ですかね。駅伝をご覧になったことのある方はイメージがしやすいと思いますが、駅伝には、単独で飛び出していく選手と、複数の選手が固まって走る集団とがあります。単独で飛び出すメリットも、集団で走るメリットもそれぞれあるのですが、集団であれば先頭の風よけ役を交代しながら走ることができますし、体力も温存できるので最後に一気にスピードを上げて勝負に出ることができます。1区はそういう駆け引きが面白いですし、エース区間と言われる2区ではすごいスピードで外国人選手たちが入れ替わり立ち替わり抜いていくところも見どころです。それぞれの区間で違った見どころがありますし、『推し選手』を見つけて注目するのも良いと思います。各区間の特徴や、それぞれの選手の特徴やこれまでの成績をチェックして、知れば知るほど楽しめるのが駅伝の魅力ですね。」

―選手を知ると、どんどん楽しみが深く、広くなっていくイメージですね。久保出選手ご自身は、どんなところを見てほしいですか。

「僕は出場する大会で、必ず一度、一気にペースを上げて前に飛び出す瞬間をつくるようにしています。スパート力、スピードでは負けない自信があるので、『ここぞ』という場面でギアを上げていくところをぜひ見てほしいです!」

―駅伝はテレビ中継も多い競技ですが、全国都道府県対抗男子駅伝競走大会(通称、天皇盃)は毎年広島で開催されています。現地で見るからこその、テレビでは味わえない醍醐味はありますか。

「僕自身は沿道から声をかけてもらったら、必ず手を振ったり指を差したり、そういうリアクションをするようにしています。応援されると力が出るタイプの選手なので、ぜひ現地で応援してもらえるとうれしいですね。選手からのリアクションを直接見ることができるのは観戦のおもしろさの一つだと思いますし、中国電力の選手には、応援が聞こえたらスピードが上がったり、リアクションをするメンバーが多いのも特徴です。ぜひ沿道で声援を送って、僕たち選手のリアクションも楽しんでもらえるとうれしいです。」

―現地で観戦するときは、中国電力の皆さんを見つけたら声をかけてみるといいですね。

「はい、ぜひ。すごく喜ぶと思います。」

―駅伝観戦の楽しみが増えました。今年は沿道から名前を呼んで応援します。

「よろしくお願いします!」

久保出雄太選手が語る!『駅伝のツボ』
戦略に応じたタイムの『上げ下げ』、区間ごとの見どころの違いがツボ!

久保出雄太(くぼで・ゆうた)
Yuta Kubode

2003年2月24日生、石川県出身。
小学生の頃から足が速く、小松大谷高校2年生時にサッカー部から陸上部に転部し本格的に競技を始める。箱根駅伝出場を目指して進学した城西大学では、下部組織の陸上競技同好会から駅伝部へ昇格して3年時に念願の箱根で6区を任され、襷をつないだ。その年、城西大学は初めての総合3位を獲得した。翌2025年、4年時は1区で出場。4月から中国電力陸上競技部に入部し、駅伝だけでなくフルマラソンへの挑戦も視野に入れて練習を重ねている。

◆チーム情報/中国電力陸上競技部

1989年創部。2004年の全日本実業団対抗駅伝競走大会(ニューイヤー駅伝)で初優勝を飾ると、2001年から2008年まで8年連続で3位以内に入賞するなど、日本でもトップクラスの実力を誇る。現在は卓球部・ラグビー部とともに中国電力のシンボルスポーツチームとして活動。五輪代表として活躍した尾方剛(おがた・つよし)、油谷繁(あぶらや・しげる)、現監督でもある佐藤敦之(さとう・あつし)ら、世界レベルのランナーを数多く輩出している。