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My Turning Point~広島アスリートが語る転機の物語~
【第24回】FUKUYAMA BATS・夏 達維

新たなスポーツの楽しみ方を提供する、広島横断型スポーツ応援プロジェクト、通称『Team WISH』。プロ野球やJリーグをはじめ、数多くのトップスポーツチームを有する広島県ならではの取り組みとして、日々、各チーム・選手の魅力を発信しています。

本連載では、Team WISHに参加する全25チームの選手・関係者に、「自身にとっての『ターニングポイント』とは」をインタビュー。競技や人との出会い、試合やできごと、忘れられない「あの日」、誰かの言葉……競技人生に影響を与えた転機をめぐる物語から、選手の新たな一面にフォーカスしていきます。

連載第24回目は、福山市を拠点に活動する3×3(3人制バスケットボール)チーム・FUKUYAMA BATSから夏 達維(なつ たつゆき)選手が登場。高校時代、『部活に所属せずプロになる』と決意し28歳でプロ入りを果たした異色の経歴を持つ夏選手は、5人制バスケットボールのプロチームを経て、現在は3人制のプロ選手として活躍しています。コートの内外でさまざまな挑戦を続ける夏選手が、自身の競技人生における数々のターニングポイントを語ってくれました。

◆『部活に所属せずプロになる』。周りから「無理だ」と言われてもブレなかった決意

―『部活無所属からのプロ入り』という経歴をお持ちの夏選手ですが、まず、プロを目指すようになったきっかけからお伺いできますか。

「中学生まではバスケットボール部に所属していたのですが、引退試合で1秒も出場できなかったという経験が大きかったです。その時は本当に悔しくて、『もうバスケは辞める』とまで考えて、実際に高校では何の部活にも所属せず過ごしていました。今思えば、勉強もあまり好きではありませんでしたし、目標がなくなってしまっていたというか……。毎日がつまらないなと思いながら過ごしていた時に、たまたま友達と近所のコートでバスケをする機会があったんです。当時は高校1年生でしたが、友達は高校でもバスケを続けていましたから、何もしていない僕とは差が生まれますよね。そこでボロボロに負けてしまったのが本当に悔しくて、帰り道に泣いたことを覚えています。その時に『ああ、こんなに悔しいってことは、やっぱり自分はバスケが好きなんだ』と改めて感じて、絶対にプロになると決意しました。」

―そこで、『高校のバスケ部に所属しよう』とはならなかったのですか?

「周りからもそう勧められましたし、最初は当然、バスケ部に入ることも考えました。ただ、友達から『部活に入っていないのにプロになれるわけがない』と言われたのがきっかけで、『じゃあ自分は、部活に入らずにプロになってみせる』と考えるようになりました。昔から、頑固なところがあるんですよね。(笑)」

―バスケ部に所属している選手たちは監督やコーチの指導を受けますが、夏選手はどのようなトレーニングをされていたのでしょうか。

「部活に所属している選手は、学校の授業が終わってから2時間から2時間半ほど練習をしています。それなら、部活に所属していない僕はその倍は練習しないといけないと思って、毎日5時間、雨の日も晴れの日もひたすら公園や高架下で練習に打ち込みました。そのころは今のようにYouTubeでトレーニングメニューが公開されているということもありませんでしたから、相手選手をイメージしてひたすらドリブルをしたり、自分で考えたメニューを積み重ねていきました。」

―2014年に、まずは3人制バスケットボールのチームでプロキャリアをスタートされました。その後、夢だった5人制バスケットボールのプロチームに加入されますが、そのきっかけは?

「3人制のチームに所属していた時に、和歌山の5人制プロチームの練習に参加する機会がありました。2週間程度の期間だったのですが、その間、打ったシュートがすべて決まるくらいすごく調子が良かったんです。『高校時代に部活に所属していなかった』という経歴は監督によっては獲得を躊躇することもあるかもしれないのですが、僕の運が良かったのは、当時、和歌山の監督が外国人監督で、経歴よりも実力を見てくれたことです。練習参加で結果を残したことで、正式にチームに加入することが決まりました。それから何チームか5人制のプロチームでプレーをしましたが、その時に出会ったのが、FUKUYAMA BATSの河相智志代表(兼選手)でした。」

―そこで福山との縁ができたのですね。5人制バスケットボールは2020年で引退され、その後は3人制のプロ選手として活動しながら、保険の営業職としても新たな道に進まれました。

「当時はコロナ禍で、5人制のプロリーグもシーズン途中で打ち切りになってしまうなど、リーグ全体が混乱していた時期でもありました。僕の『バスケでプロになる、バスケでご飯を食べていく』という目標を継続していくことも、すごく難しくなってしまいました。そこで5人制のバスケは一度引退し、保険の営業の仕事に就くことになりました。現在も、保険の営業の仕事をしながら3人制の選手としてプレーしています。この仕事を始めた時も、『バスケの選手から転職して、うまくいくわけがない』と周りから言われることがありました。そういう周りの評価を覆し、信頼を得るためには圧倒的な結果を出さなければいけないと考え、全国新人歴代1位という実績を残そうと心に決めて、実際に達成することもできました。」

◆苦しい時期をともに戦った仲間を支えたいと、福山でのプレーを決断

―お話をお伺いしていると、周りから難しいといわれる道でも目標を口に出すことで着実に実現されてきたという印象があります。

「はい、僕は頑固なところがあるので(笑)。高校時代に部活に所属しなかったことで、逆に『普通はこうだろう』、『普通はこんなことはしないだろう』という型にはまらず、自分で考えて貫き通すことができるようになったと思っています。」

―夏選手にとっては、高校時代に悔しくて涙を流した公園での出来事が大きなターニングポイントだったのですね。

「そうですね。もう一つあげるとすれば、Bリーグの加入テストを受けて落ちてしまった経験も、大きなターニングポイントだったと思っています。それまではとにかくガムシャラに努力をしていたのですが、ガムシャラなだけでは自分の描くゴールに向かう道筋に立つことができないと考えるようになりました。もちろん努力を積み重ねることは大切ですが、『正しい努力』をしなければ、夢の実現は難しいと感じるようになりました。そこからはより一層、目標を明確に描き、達成するための筋道を立てて考え、実践するようになりました。この経験はバスケットの選手としてだけでなく、保険の営業職として活動するなかでも活かされていると思います。」

―現在は保険の営業職のお仕事をしながら、FUKUYAMA BATSでは選手として活躍されています。FUKUYAMA BATSに加入したきっかけを聞かせてください。

「5人制の時代に河相さんと一緒にプレーしていたのですが、『夏がいると精神的にも助かるんだ』と言ってもらえたことが大きかったですね。当時はバスケのプロ選手といっても今ほど環境が整っていたわけではありませんでしたから、河相さんとは苦しい時期を一緒に戦ってきたという思いがあります。それまでは福山市とは縁がなかったのですが、今はFUKUYAMA BATSの一員として、なんとかプレーの面でも河相さんを助けることができればと思っています。」

―部活無所属からプロ選手に、そして未経験から保険のトップ営業にと多彩な経歴をお持ちの夏選手ですが、ご自身の経験を伝える講演や出版活動にも力を入れています。

「はい。昨年は僕の経験をまとめた書籍も出版しました。実はこれも、高校時代から思い描いていた目標の一つだったんです。常々『プロで10年プレーして、夢が叶ったら自分の経験を本にしたい』と周りに話していたのですが、縁があって声をかけていただき、その夢も叶えることができました。」

―2014年にプロキャリアをスタートし2024年に書籍出版と、目標を現実のものにされましたね。

「これからは自分の経験を活かしながら、FUKUYAMA BATSでもチームに貢献して、盛り上げていければと思っています。」

―夏選手の活動に、これからも注目させていただきます。本日はありがとうございました!

「はい、ありがとうございました!」

夏 達維選手の【My Turning Point】

☆ 高校時代、一度は離れたバスケの世界に戻るきっかけになった、友達との試合
☆ 周囲に「部活に入っていないから無理だ」と言われ、より固まったプロへの思い
☆ 落選したからこそ努力の筋道を見直すきっかけとなった、Bリーグ加入テスト

1986年5月30日、愛知県出身
中学時代にバスケットボール部に所属するが、引退試合で出場機会がなかったことで一念発起。「部活に所属していなくても、プロ選手になれることを証明する」と決意し、自身が設定したトレーニングを重ね、見事3人制選手としてプロ生活をスタートする。その後、5人制プロチームを経て現在は再び3人制の世界で活躍。プロ選手として活動するかたわら、保険営業職としても高い成績を残すなど競技の世界にとどまらない活躍を続けている。2024年4月、初の著書『僕は叶える〜無謀な夢を実現しよう!〜』を出版。

◆チーム情報/FUKUYAMA BATS(フクヤマ バッツ)
2019年に福山市で創設された、3人制プロバスケットボールチーム。チーム名であるバッツは福山の市章である蝙蝠(コウモリ)を意味しており、ロゴデザインも蝙蝠をモチーフとしている。プロチームとしての活動に加え、地域貢献を目指しバスケットボール教室を積極的に開催。チームは現在、西日本最大級のツアー形式の大会である3x3UNITED(スリー・エックス・スリー・ユナイテッド)に参戦している。