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My Turning Point~広島アスリートが語る転機の物語~
【第18回】ダイソー女子駅伝部・垣内瑞希
新たなスポーツの楽しみ方を提供する、広島横断型スポーツ応援プロジェクト、通称『Team WISH』。プロ野球やJリーグをはじめ、数多くのトップスポーツチームを有する広島県ならではの取り組みとして、日々、各チーム・選手の魅力を発信している。
本連載では、Team WISHに参加する全25チームの選手・関係者に、「自身にとっての『ターニングポイント』とは」をインタビュー。
競技や人との出会い、試合やできごと、忘れられない「あの日」、誰かの言葉……競技人生に影響を与えた転機をめぐる物語から、選手の新たな一面にフォーカスしていく。
連載18回目の今回は、東広島市を拠点に活動するダイソー女子駅伝部から、垣内瑞希(かきうち みずき)選手が登場。高校時代、あと一歩のところで届かなかったインターハイの悔しさや、ダイソー女子駅伝部との出会いのきっかけ、ポジティブな気持ちを保つことで自身の結果につながった昨年のプリンセス駅伝など、小学生時代から続く陸上人生で体験した、数々のターニングポイントについて話を聞いた。
◆あと一歩でインターハイ出場を逃した悔しさをバネに成長した高校時代
―今季からダイソー女子駅伝部に加入された垣内選手ですが、いつ頃、どんなきっかけで駅伝を始められたのでしょうか。
「小さい頃に『ドロケイ』という遊びをしていた時、サッカー少年に追いかけられて逃げられなかったのが悔しくて……(笑)。陸上チームに入れば足も早くなって、ドロケイでも捕まらなくなるのではないかと思ったことが、陸上競技を始めたいちばん最初のきっかけでした」
―『ドロケイ』というと、泥棒役と警察役とに分かれて遊ぶ鬼ごっこですね。そこから陸上人生が始まったというのは、意外なきっかけです。
「そうですね。小学4年生の時に、本格的に地元の陸上チームに参加するようになりました。週2回の朝練習と、日曜日の午前中に2時間ぐらいの練習があって、毎回楽しみに通っていました」
―中学では、陸上部に入部されたのですか?
「はい。小学生では短距離を走っていましたが、中学からは長距離に切り替えました。自分には短距離走の才能がないと感じていたのと、そのチームでは長距離をやる人もが少なかったこともあって、転向することに決めました。実際に走ってみると、短距離よりも楽しかったですね」
―それまでは短距離を専門にされていたということですが、長距離にはすぐに慣れることができたのでしょうか。
「練習は辛かったです。ただ、試合で自己ベストが出た時はすごく楽しいですし、調子がいい時はどれだけ走っても辛さを感じないんです。練習では常に調子がいいときの感覚に持っていけるように、毎日調整しながら取り組んでいます」
―中学で長距離に転向し、高校でも陸上を続けられました。ここまでの競技人生において、転機になった出来事を挙げるとすれば、何でしょうか。
「高校2年生の時に出場した、東海高等学校総合体育大会(東海総体)です。6位までがインターハイに出場できるのですが、私は7位で、ぎりぎりインターハイ出場には届かなかったんです。すごく悔しい思いをして、そこから本気で陸上に取り組み始めました。記録が伸びていくなかで、より陸上を楽しいと感じるようになり、大学でも陸上を続けたいという気持ちが芽生えました」
―順天堂大学へ進まれたのは、なぜですか?
「偶然、私が出場した大会を順天堂大学のコーチが見てくれていたんです。男子陸上部のコーチの方だったのですが、そこで女子の監督に伝えてくださり、直接見ていただく機会があったことがきっかけでした。大学時代は周りに信号がほとんどない環境だったので走りやすく、練習環境は良かったですね」
―実業団入りは、いつ頃から意識していましたか?
「大学2年生の冬です。その頃もまた記録が伸びるようになっていた時期で、監督にも陸上を続けた方がいいんじゃないかと言ってもらえていたので、卒業後も実業団で競技を続けることを考えるようになりました」
◆責任感を持って練習し、さらに強くなり『クイーンズ駅伝』出場を目指す
―たくさんの実業団チームがあるなかで、ダイソー女子駅伝部を選んだ理由は?
「後輩に勧められたことが大きかったですね。ダイソーでスカウトをされている方が中学時代の恩師だという選手がいて、彼女が背中を押してくれました。せっかくなので一度練習に参加してみようと思って合宿に参加したら、私自身に合っていると感じたので入社を決めました」
―どんなところが合っていると感じたのでしょうか。
「私はクロカン(クロスカントリー)が好きなのですが、ダイソーはクロカンでの練習が多く、ケガも少なく距離を踏めるかなと思いました。部の方針としては『8割の練習』という考え方があり、毎回全力ではなく少し余裕を持って終わるところも自分には合っていると思います」
―クロスカントリーというと、野原や森林など足元が悪い場所を走る練習ですね。逆にケガをしやすそうにも感じますが。
「確かに足元は悪いですが、アスファルトで舗装された道路に比べると衝撃も少なくバランスも整えられるので、良い練習法の一つなんです」
―なるほど、そうしたメリットがあるのですね。ダイソー女子駅伝部のイメージは、入部前と入部後では変化はありましたか?
「陸上に対して責任感を持っている選手が多いという印象を受けました。学生の頃も責任感や情熱がないわけではありませんでしたが、やはり学業が第一優先でしたし、実業団に比べれば陸上への熱量は少なかったなと感じました」
―ダイソー女子駅伝部のみなさんは、お仕事をされながら競技に取り組んでいると伺いました。垣内選手は、どのような業務を担当されているのですか?
「基本的には週に2回、ダイソーの店舗に行って接客や品出しなどの仕事をします。ダイソーは商品数が多いので、お客様から『あの商品はどこにありますか』と聞かれることも多く、いつも探し回っていますね(笑)」
―それは大変そうですね。仕事と競技の両立には難しい部分もあるかと思いますが、社会人になってから、ご自身の中で変化したことはありますか?
「昨年10月20日に福岡県で開催された『プリンセス駅伝(全日本実業団対抗女子駅伝予選会)』では、大会前は調子が上がらなくて不安もあったんです。ただ、ネガティブな気持ちになるとどんどん走れなくなってしまうので、『気持ちだけでも前向きでいよう!』と無理やりポジティブに切り替えました。思った以上に良い走りができたので、気持ちの面の大事を改めて感じました」
―大切な大会で、メンタル面の重要性を再認識されたのですね。それでは最後に、今後に向けての目標をお聞かせいただけますか。
「個人としては、自己ベストを大学2年生の時から更新できていないので、それを更新することを目標にしています。ダイソーとしては、2年連続で『クイーンズ駅伝(全日本実業団対抗女子駅伝競走大会)』への出場を逃しているので、今年こそは出場できるように、またみんなで頑張っていきたいと思っています。これからもっとダイソー女子駅伝部をみなさんに知ってもらえるように、強くなっていきたいと思っているので、応援よろしくお願いします」
垣内瑞希(かきうち みずき)
Mizuki Kakiuchi
2001年8月4日、三重県出身。
桑名高校、順天堂大学を経て2024年にチーム初の大卒新人としてダイソー女子駅伝部に入部。1年目の昨年は9月の中国実業団長距離記録会女子5000mで3着に入り、2024年のプリンセス駅伝では5区を走って区間7位と健闘した。各地での合宿が多く、東広島市内にある部の寮で過ごす時間は限られるが「買い物なども便利で住みやすい。広島の食べ物では牡蠣が好きです」と広島暮らしも気に入っている様子だ。
◆チーム情報/ダイソー女子駅伝部
2019年4月創部。初代監督に世羅高校陸上部を男女合わせて6度優勝に導いた岩本真弥氏を招聘し、東広島市を拠点として主に中・長距離選手の育成を行っている。3年目の2021年には実業団女子日本一決定戦とされるクイーンズ駅伝(全日本実業団対抗女子駅伝競走大会)に初出場を果たし、2022年も連続出場。一気に全国区で存在感を示したが、2023・2024年は、その出場権をかけたプリンセス駅伝で2年連続17位。出場枠16位に一歩及ばず涙を飲んだ。まずはクイーンズ駅伝の常連となり、さらにその先の頂点を目指し、日々トレーニングを積み重ねている。