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My Favorite Numbers
〜数字が紐解く広島アスリートの素顔 〜
【第6回】ヴィクトワール広島・中田 拓也

新たなスポーツの楽しみ方を提供する、広島横断型スポーツ応援プロジェクト、通称『Team WISH』。プロ野球やJリーグをはじめ、数多くのトップスポーツチームを有する広島県ならではの取り組みとして、日々、各チーム・選手の魅力を発信している。

左側:ヴィクトワール広島・中田 拓也 選手

本連載では、Team WISHに参加する全25チームの選手・関係者に、「自身にとって印象深い『数字』」をインタビュー。
競技人生における自慢の成績、好きな数字、ラッキーナンバー……数字にまつわる物語から、選手の新たな一面にフォーカスする。

連載第6回は、自転車ロードレースチーム『ヴィクトワール広島』から、中田(なかた) 拓也(たくや)選手が登場。高校球児から競技自転車に転身しプロ入りを果たした中田選手の、心に残る『数字』・自慢の『記録』を紐解いていく。

◆元高校球児のロードレーサー。転機になったのは、走行会でかけられた何気ない一言

ー元高校球児という経歴をお持ちの中田選手ですが、好きな数字と言われてまず思い浮かぶ数字はありますか?

「僕は自転車を始める前、小中高で野球やっていました。小中高の野球部は、プロ野球と違ってポジションごとに背番号が決まっているんですよね。僕は一塁手で、ずっと背番号『3』をつけていたので、『3』という数字にはとても思い入れがあります」

ー高校卒業後に自転車ロードレースを始め、プロにまで上り詰めました。その原動力は何だったのでしょうか。

「高校野球が終わってからしばらくはやり切ったというか……燃え尽きたような状態だったんです。一方で、『甲子園に出ることができなかった』という思いもあってくすぶっていたところで、友達に勧められて『弱虫ペダル』という自転車ロードレースをモチーフにした漫画を読んだのがきっかけでした。最初は趣味で自転車に乗るようになったのですが、お世話になっていたサイクルショップが定期的に開いている走行会に参加するようになって、そこでタイムを測定したりレースに参加したりしているうちに徐々に結果が出るようになってきました。そんな時、走行会に参加していた僕よりずっと強い人が、ぽろっと『中田くん、プロ行けるんじゃない?』って呟いて……。それを聞いた瞬間、『あ、プロ目指してみようかな』と」

ーターニングポイントになった瞬間だったんですね。

「そうですね。一つのきっかけになりました。そこからプロを目指すようになったのですが、当時は看護学校に通っていたので、両親とは学校はどうするんだ!という話にもなりましたし(苦笑)。いろいろと迷惑をかけたと思っています。最終的には、九州チャレンジという九州ナンバーワンを決めるレースのアンダーカテゴリ(年齢別に、ジュニア、アンダー17、アンダー23、エリートのカテゴリが設定されている)で優勝した姿を見て、両親もプロに進むことを認めてくれました」

ーそこからシマノレーシングに加入して、プロ選手の道を歩み出されたわけですね。

「はい。シマノはすごく伝統のあるチームで、中途で加入するケースは非常に珍しいんです。僕を含めて、過去2人しかいないという話を聞いたこともあります。実は、僕がアンダーカテゴリで優勝した九州チャレンジのエリートカテゴリで優勝した黒枝咲哉選手(現在はスパークル大分所属)とは、シマノでは同期入団でした。同じ日に行われたレースでそれぞれ1位になった二人が、2年後にシマノに同期入団したということで、運命めいたものを感じましたね」

ー弱虫ペダルをきっかけに、プロの世界へ。まるで漫画のようなストーリーです。

「そうですね(笑)。実はシマノ時代に出場したレースで、作者の渡辺航先生にお会いすることができたんです。『自分は2年前にあの漫画を読んで、そこから自転車を始めて今ここに立っています』とお話したら、すごく喜んでくださいました。僕からすると、人生を変えてくれた存在です」

◆選手を取り巻く機材も自転車ロードレースの魅力。自慢の数字は自己ベストの“パワー”!

ー自転車ロードレースではゼッケンをつけますが、ゼッケン番号はどうやって決まるのでしょうか。

「僕たちが所属するジャパンサイクルリーグ(以下、JCL)では、前年の成績によって番号が決まります。例えば、前年度1位のチームは一桁の番号、4位のチームは40番台の番号、という感じですね。僕の思い入れのある番号の一つに、『48』があります。これはシマノに所属した最初の年につけた番号ということもあって、すごく気に入っていますね。車のナンバーにしようかなと思っているくらいです(笑)」

ーでは、中田選手が競技を始めてからこれまでで、自慢の数字や記録はありますか?

「一番最近の記録で印象に残っているのは、パワーメーターの『1,500』ワットという数字ですね。僕はチームの中では『スプリンター』という、エースを引いていくポジションで、ゴール前での飛び出しなど爆発的なパワーが必要となります。自分がどのくらいのパワーを出せるか計測するために専用の機械を使うのですが、先日自己ベストを更新して『1,500』ワットを出しました。ずっと目標にしてきた数値でもあるので、いま、自分のなかでホットな数字ですね。スプリンターであれば1,000ワット前後が一般的な印象なので、1,500ワットを出せる選手は、日本国内でもそんなに多くないのではないかと思います」

ー自転車ロードレースならではの数字や記録というのはありますか?

「他の競技にない数字という意味では、『心拍数』でしょうか。心拍数を計測するデバイスがあるのですが、そのデバイスを使うと『自分がいま、どのくらいきついか』を目で見て把握することができるんです。疲れていると感じていても、『数値を見ると心拍数がそこまで上がっていないからまだ追い込める』など、自分の限界値を把握することができます。自転車ロードレースは『機材スポーツ』とも呼ばれ、自転車そのものだけでなく、周辺で支えるいろいろな機械や機材があって成り立っているスポーツです。ホイールの重さ、チェーンの数、ギアの枚数など、選手によって様々な要素があり、機材の性能を上手く活かすことができれば、力の差がある選手に勝つこともできます。面白い要素がたくさんある競技なので、ぜひ、そのあたりにも注目してもらえたらと思います」

ー最後に、中田選手が、プロロードレーサーとして目標にしている記録や順位を教えてください。

「やはり1位、優勝です。 僕はプロに入ってから優勝した経験がないので、特に広島大会での1位は欲しいですね。自転車ロードレースは雨が降っても行われますし、レース中は食事も自転車の上ですし、とにかく過酷なスポーツです。本当にきついのですが、そうやって極限まで削ぎ落として、全てを出し切って戦う姿は、すごく美しいと思っています」

ー中田選手が大切にされている数字は野球をしていた時代のポジション番号『3』、シマノ時代のゼッケン『48』、そして、ヴィクトワール広島で達成した『1,500』ワットの3つということですね。

「そうですね。今週末(7月8・9日)には広島でレースが開催されるので、ぜひ見に来てもらいたいです。僕のパワーにも、ぜひ注目してください!」

ー本日は、ありがとうございました。

「ありがとうございました」

中田拓也の【My Favorite Numbers】
『3』『48』『1,500』


中田拓也

Takuya Nakata

1996年6月3日生、福岡県出身
小中高と野球部に所属し、主に一塁手としてプレー。高校卒業後に自転車ロードレースと出会い、アルバイト代で初代愛車・corratec(コラテック)を手にすると、本格的に競技をスタートさせる。2016年の九州チャレンジサイクリングロードレースでは、アンダーカテゴリ(U23)で出場し優勝。翌2017年には西日本チャレンジサイクリングロードレース(U23)でも優勝を果たし、2018年から大阪の伝統チーム・シマノレーシングに所属。プロ5年目の2023シーズンからヴィクトワール広島に所属。チーム随一のパワーでエースを勝利へと導くスプリンター。

◆チーム情報/ヴィクトワール広島
2015年に誕生した中四国初のプロ自転車ロードレースチーム。同年からJプロツアーに参入し、2020年にUCI(国際自転車競技連合)のコンチネンタルチームに登録された。2021年からはジャパンサイクルリーグ (JCL) に参戦している。レース活動の他、自転車安全教室など多数開催。サイクリングイベント開催を通じてその地域の魅力を伝えるなど、地域に根差した活動に力を入れている。2023年7月8日(土)に三原市・佐木島で『佐木島ロードレース』、9日(日)に広島市西区商工センターで『広島トヨタ広島クリテリウム』開催予定。