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コラム
プロ化に向け大きな変革を~ハンドボールを世界最高峰リーグへ~【後編】
皆さん、こんにちは。
一般社団法人日本ハンドボールリーグ代表理事を務めております、葦原一正です。
これまで私は、野球ではオリックス・バファローズ、横浜DeNAベイスターズ、そして男子バスケットボールのB.LEAGUEなどで、約15年間スポーツビジネスに従事してきました。
ハンドボールに携わるようになったのは、2021年4月のこと。日本ハンドボールリーグの代表理事に就任し、現在私は、ハンドボール界を前進させるため、新たな変革に挑戦しています。
ハンドボール日本リーグは今、プロ化を視野にリーグ改革を進めています。
今回は、業界の抱える課題や新リーグの構想、そして広島にゆかりのある私が思う広島のスポーツについての後編です。
プロ化によってサステナブルな体制を目指す
現在、日本ハンドボールリーグは、将来的なプロ化に向けて2024年2月に新リーグの創設を目指しています。多方面から、プロ化に関しては色々な意見が出ていますが、選手にとってプロ化するメリットは大きいと考えています。
全国400名の選手にアンケートを取ったところ、社会的な見られ方に悩んでいる選手が多いことが判明しました。これまでのハンドボールのチームは男女とも実業団チームが中心です。いわゆるアマチュアと位置づけられています。選手は会社の社員として働いて試合に出場するので、選手としての報酬は基本的に発生していません。そんな状況下で、例えばファンから「プロなんでしょう」と聞かれても、何と答えていいかわからないというのです。「自分はプロだ」とはっきり言える精神的な部分はとても大きいと思います。
また、市場が大きくなればサラリーはプロの方が上っていきます。アマチュアの選手でいる限り、優勝しようと MVPを 取ろうとお金は稼げません。しかしプロになると活躍が給与に反映していきます。そして、これまでよりハンドボールに関わる時間は増えるでしょう。今は企業の社員として働いた後、夜から選手は練習に入ります。プロになれば徐々にハンドボールの中心生活になっていきます。特に若い選手からは、限りある選手人生で勝負をしたい、できるだけハンドボールに時間を費やしたいという声が多かったのです。
もちろんこれまでの形態を全て壊すわけではありませんが、さまざまな意見があるなかでプロ化を目指す理由は、事業としてサステナブルなモデルを構築するためです。常に2億円赤字の状況では、経営悪化による聖域なき予算カットが予想されます。社長が交代すれば、チームの位置付けが変わる可能性もあり、極めてハイリスクです。そんな状況を、ハンドボールリーグ責任者である自分が容認するわけにはいかないのです。
日本初!リーグ主導による事業経営「シングルエンティティ」
新リーグ構想では、リーグ本体がチケットやスポンサーなどの収入を一括管理するシステム「シングルエンティティ」を日本の主要リーグで初めて取り入れます。分かりやすく言うと、リーグがすべてビジネスを回しますという仕組みです。メジャースポーツの大きな収入源は、チケット販売、スポンサー、放映権、グッズ、この4つがメインになります。現在のプロ野球、例えば広島東洋カープで例えると、レギュラーシーズンにおける4大収入は球団が運営します。しかし日本シリーズでは、チケット、スポンサー、放映権は NPBが販売するという仕組みがとられています。そういった複雑さがないのが今後のハンドボールリーグです。レギュラーシーズン、プレーオフなどの期間に関わらず、4大収入も含め、全てリーグが一元管理します。
一般的なビジネスにおける、フランチャイズモデルと直営店モデルに置き換えてみましょう。
フランチャイズ型の代表格セブンイレブンでは、各店のオーナーが仕入れを決めて売り上げの一部を本部に上納する形をとっています。意思決定権は各店にあり、セブンイレブンブランドを使って事業を展開。これはスポーツに例えると、Jリーグ やB リーグに近いと思います。
直営型スタイルのスターバックスは、本部が主導で店舗を進出し運営をします。本部直結のため、世界観の統一はとても取りやすいモデルです。
成長スピードを優先するならば、急速に全国に展開できるフランチャイズ型がよいでしょう。しかし、ハンドボール新リーグがとるのは、本店手動で一気にビジネスを構築し、クオリティコントロールが効きやすいスターバックス型です。私は、意思決定が早くでき、いかに効率よく進められるかに重きを置きました。速いスピードで的確な施策を行い、売上の基盤をつくっていきたいのです。
この新構想は、これまでの日本には存在しません。「シングルエンティティ」を採用するアメリカおいても、ここまで振り切ったモデルはありません。しかし、今のハンドボール界には、よりスピーディーに、成功確率高く、ものごとを推進していくことが大切だと考えています。
スポーツ愛溢れる広島で、チームや競技の枠を越えた連携を
全国各地のスポーツに関わる方にお会いしていますが、広島はスポーツ愛に溢れており,スポーツに対する理解がとても深いのです。広島ではテレビのチャンネルをひねれば、スポーツ情報に当たる確率が高いのも特徴的です。特にメディアは、広島東洋カープをはじめ,数多くのスポーツを積極的に取り上げており、大きな愛に満ちているのがわかります。
現在、広島県スポーツ推進課内にあるスポーツアクティベーションひろしま(通称:SAH)が進めている、あらゆるスポーツが横連携できる座組み「TeamWISH」は、他県ではあまり類をみない取組です。ボールの大きさが変わろうとも、ボールを使わずとも、結局スポーツにおけるビジネスの中身はほぼ一緒です。これからのスポーツは、ただ勝った負けたではなく、スポーツチームまたは選手たちが、競技の枠を超え、どれだけ社会課題に対して自分たちの発信力を駆使し、連携して解決に向け動いていくかが大切になっていきます。
私がつくりたい社会は、たくさんの人がスポーツを見てスポーツを自らも楽しむという、スポーツがある日常です。広島県の今の状況は、きっと私がつくっていきたい未来に向かっているでしょう。県民全体がスポーツを愛し、スポーツによって日々の活力を受け、そしてさらに人生が豊かになっていく。今の広島から、他の都道府県にはない温かさと熱さを感じています。私は、広島東洋カープの、そして広島のファンです。広島の皆さんには、今後も変わらず温かい目で全スポーツを見守っていただき、SAHの皆さんには広島のスポーツを盛り上げるべく頑張っていただきたいと思います。
葦原一正
Ashihara Kazumasa
1977年生まれ。早稲田大学大学院修了後、コンサルティング会社に入社。2007年にプロ野球のオリックス・バファローズ、12年に横浜DeNAベイスターズに入社し、いずれも事業戦略立案などを担当。15年に発足したプロバスケットボール男子Bリーグの初代事務局長を務める。21年4月から日本ハンドボールリーグ初代代表理事に就任。
(コラムコーディネート/大須賀あい)