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取材記事
【突撃!広島アスリートの食卓<第1回>】広島エフ・ドゥ 寺本芳希(フットサル) × アフィーレ広島 谷口正典(アンプティサッカー)
広島県はプロ野球やJリーグをはじめ、数多くのトップスポーツチームが存在する『スポーツ王国』だ。本連載は、競技の垣根を越え「新たなスポーツの楽しみ方」を提供する広島横断型スポーツ応援プロジェクト、通称『Team WISH』に参加する26チームの選手・関係者が登場し、選手を支える大事な要素である『食』を軸に、対談形式で彼らの魅力をお送りする。
記念すべき第1回目は、日本フットサルリーグdivision2に参戦中の『広島エフ・ドゥ』から寺本芳希選手、そしてインクルーシブフットボール※クラブ『アフィーレ広島』からアンプティサッカーの谷口正典選手が登場。
※インクルーシブとは、直訳すると「包括的な・包み込む」という意味。障害の有無、性別や年齢、国籍の違いなど関係なく、多様な価値観をもって誰もが参加できるフットボールがインクルーシブフットボールである。
フットサルとは、5人制で行うサッカーに似た競技で、日本での競技人口は約150万人といわれている。得点方法やルールはサッカーに近いが、コートのサイズや使用するボールの大きさが異なるのが特徴だ。2007年には日本フットサルリーグが発足し、現在は21チームが加盟している。トップリーグにあたるdivision1と、下部リーグにあたるdivision2で構成され、毎年入れ替えを賭けた熾烈な戦いが繰り広げられている。
一方、谷口選手がプレーするアンプティサッカーは、専用器具を必要とせず、日常の生活やリハビリ医療目的で使用するクラッチ(杖)を用いて、片足のみを使用しボールを扱うサッカー。主に上肢また下肢の切断障がいを持った選手により行われるが、障害の有無に関係なくプレーすることができるパラスポーツの一種である。現在は国内11チームが日本アンプティサッカー協会に所属している。
同じ『ボールを蹴る』競技に携わる両選手に、お互いの競技の印象と『食』へのこだわりなどを語ってもらった。
逆境を乗り越えた2人が語る、それぞれのスポーツの魅力とは
ーお2人が競技を始めたきっかけを教えてください。
谷口「私は、義足をつくってくれた義肢装具士さんとの出会いがきっかけですね。23歳の時に大きな交通事故に遭い、右足を大腿部から切断する手術を受けて、義足をつけた生活になりました。実はそれまで、『アンプティサッカー』の知識はもちろん、サッカー経験自体もなかったんです。その義肢装具士さんに『大丈夫、やってみようよ』と誘われたのが、競技を始めたきっかけですね」
寺本「僕が本格的にフットサルに取り組むようになったのは、大学生になってからです。小学生の頃からずっとサッカーを続けていたのですが、実は一度、『もうボールを蹴るのは辞めよう』と思ってサッカーを辞めたことがあるんです。でも、サッカーから離れて1カ月が過ぎた頃、無性にボールを蹴りたくなって……。『フットサルならやったことがあるし』という軽い気持ちでフットサル部に入部したのが、競技フットサルを始めたきっかけでした」
ーこれまでの競技人生で、忘れられない瞬間はありますか?
谷口「私は事故の時に脳挫傷も負っていたのですが、その影響で、4年前から『高次脳機能障害※』の症状が出るようになりました。そのために、周囲にも迷惑をかけてしまうことがあったんです。そこで妻とも相談して、チームの仲間にそのことをカミングアウトすることにしました。その直後の日本選手権でハットトリックを達成して勝利に貢献することができたのは、今でも印象深い思い出になっています。カミングアウトをしたことで、チームのみんなが自由に動き回る自分に合わせてくれるようになり、うまく噛み合ってチーム全体の底上げにもなったと感じました」
※高次脳機能障害とは、けがや病気、交通事故などによって脳に損傷を負い、知的機能に影響する。
寺本「僕は、エフ・ドゥ入団3年目に出場した試合で、決勝ゴールを決めたシーンが特に記憶に残っています。僕は今年で入団4年目になるのですが、1年目に左膝の前十字靭帯を断裂するケガをしてしまったんです。そこからは手術とリハビリで約1年間プレーすることができず、2年目にようやく公式戦に出ることができるまでに回復したのですが、今度は復帰戦の直前に半月板を損傷してしまって。2年連続で試合に出ることができなかったので、復帰戦で決めた決勝ゴールはやっぱり忘れられないですね。ケガと手術、リハビリを繰り返していた2年間は本当に苦しかったですし、『フットサルを辞めよう』と思ったこともありました。その分、復帰戦でゴールをあげられた瞬間は、本当にうれしかったですね」
ー逆境を乗り越えた後の試合が一番印象に残っているんですね。お互いの話を聞いて、どのように感じましたか?
谷口「二度のケガを乗り越えたこと、ケガや手術、リハビリが続く中でも『自分が好きなことをやろう』という諦めない気持ちを持ち続けたことが素晴らしいと思いましたね」
寺本「僕がすごいなと思ったのは、『高次脳機能障害』をチームメートにカミングアウトしたところですね。ずっと悩んでいたことを周りに伝えるという決断は、簡単なことではないと思いますし、勇気がいることだと思います。結果として、相乗効果になってチームの底上げや個人の結果にもつながったこともかっこいいなと思いました」
ー逆境を乗り越える時に、支えになったものは何でしたか?
谷口「やはり仲間の存在は大きかったですね」
寺本「僕もです。1人だったら絶対に乗り越えることができなかったと思うので、病院のスタッフさんも含めて、周りの人たちには本当に助けられました」
ー日々の練習スケジュールについて教えてください。
谷口「平日は、トレーナーがつくってくれたメニューを中心にトレーニングをしています。アンプティサッカーは片足で蹴ったり走ったりする競技なので、体幹を鍛えることがとても重要です。チーム練習では、監督やコーチの組んだメニューに沿ってトレーニングをすることが多いですね」
寺本「エフ・ドゥは、平日の20時から22時がチーム練習の時間になっています。土日も必ず練習をするので、休養日も挟みつつ、週に5回は練習をします。チーム練習以外の時間は、筋トレやパーソナルトレーナーさんの指導でトレーニングをしていますね」
ーご自身が取り組まれているスポーツの、どんなところに魅力を感じていますか?
谷口「『悩みを打ち明けた仲間たちとだからこそできる』という点が、インクルーシブサッカーの良いところであり、魅力でもあると思っています」
寺本「フットサルは人数が限られている分、全員でイメージを共有することができる、一体感のあるところが魅力ですね」
ーお互いの競技を観戦したことはありますか?
寺本「実は、知り合いにアンプティサッカーと関わりのある方がいるんです。その方からお話を聞いたことがあって、いつか機会があればアフィーレ広島の練習に参加してみたいと思っていました」
谷口「私もエフ・ドゥの試合は、動画でよく観戦しています。フットサルはコートもコンパクトですし、パス回しもすごく早い。試合そのものもスピーディですよね。みなさんの正確なパス回しは、見ていてとても勉強になります」
寺本「本当ですか?うれしいです。ありがとうございます」
谷口「やはり同じ『蹴る』という競技ですから、興味はありますよね」
寺本「そうですね。僕もいろいろと挑戦してみたいと思っています」
ーお互いの競技の『あるあるネタ』を聞かせてください。
谷口「アンプティサッカーは、普段つけている義足を外して、自分の足とクラッチとを使ってコートを走り回ります。ですから自然と、練習中や試合中にはグラウンド脇に外した義足が並ぶことになるのですが、あれはアンプティサッカーならではの『あるある』な光景ですね(笑)。 もう一つは、義足ではない方の足をよく骨折したり捻挫したりすることですね。試合が終われば、必ずどこかをケガしています。そのくらいハードなスポーツなんです」
寺本「ケアが大変ではないですか?」
谷口「トレーナーや周りのスタッフの方たちに、本当に助けていただいていますね」
寺本「フットサルコートは平らなので、基本的にボールがイレギュラーバウンドをすることはないのですが、そんな中でトラップミスをすると『靴裏のせいにしがち』なのは、フットサルの『あるある』かもしれません。ミスをした後で、靴の裏を手で触って首を傾げたり、感触を確認するようなシーンがよくあるのですが、実はあまり関係ないんですよね……(笑)」
谷口「そうだったんですね。これからは、選手の仕草にも注目して見てみます(笑)」
何でも食べて、しっかり寝ることが基本。
ー次は食事についてお伺いします。『スポーツ選手は体が資本』と言われますが、日々の食事で気をつけていることはありますか?
谷口「私は『アスリートフードマイスター3級』や『野菜ソムリエ』などの資格を持っているので、できるだけ自炊をするように心がけています。自分で選んだ食材を家族に調理してもらうことも多いですね」
寺本「得意な料理は何ですか?」
谷口「アヒージョですね」
寺本「へえ~!おしゃれですね!」
谷口「あとは、タンパク質だけ、炭水化物だけ……と偏らないように、まんべんなく、残さずバランスよく食べるように気をつけています」
寺本「僕も基本的には自炊をしています。谷口さんと同じように、バランスよく食べることは気をつけていますね。おかずの品数を意識して、いろいろな品目のものを摂れるようにしています」
谷口「得意な料理は?」
寺本「アヒージョには敵わないですけど(笑)……得意なのは、鮭や鶏胸肉のホイル焼きです。洗い物が少ないのも気に入っています」
谷口「あと、私はとにかく水を飲むようにしていますね。足を切断していると、発汗する面積が他の人よりも少なく熱中症になりやすいと言われているので、熱中症対策のためにも水分はよく摂るようにしています」
寺本「僕はもともと体重が増えにくい体質なので、できるだけ間食を摂るように心がけていますね。フットサルコートは狭いので選手同士の接触プレーも多いのですが、フィジカル負けをしないためにも、体を大きくすることが重要だと思っています」
ー同じ競技を頑張っている子供たちに、食事に関するアドバイスをお願いします。
谷口「難しいことを考えるよりも、親御さんがつくってくれた食事を好き嫌いせず、残さず食べるようにしましょう、ということですね」
寺本「本当にそうですよね。好き嫌いをせずに食べること、そしてたくさん寝ることが大切だと思っています。トレーニングや試合で体はたくさん傷ついているので、たくさん寝て回復して、そして次の日に備えるようにしてもらいたいですね」
谷口「たくさん食べて、早く寝る。これが大切ですね」
寺本「そうです。それで完璧ですね」
ー試合前に食べる『勝負飯』はありますか?
谷口「日頃からよく食べているのはチキングリルですね。旬の野菜も一緒にグリルして摂ると、気分が上がって良いメンタルで試合に臨むことができるんです」
寺本「僕は、食べる量に気をつけるようにしています。試合に向けてエネルギーを蓄えておきたいので、炭水化物を意識して多めに摂るようにしていますね。試合前は、豚肉の炒め物でエネルギー補充をすることが多いです」
ーでは、試合や練習後に食べる、自分へのご褒美はありますか?
谷口「フルーツ全般、特にバナナとキウイが好きですね。ビタミンCやカリウムも摂れますし、栄養価も高いので積極的に食べるようにしています」
寺本「僕はシュークリームが大好きなので、自分にご褒美をあげたい時にはシュークリームを食べますね。『今日は頑張ったんだから、明日からまた頑張ろう』という気持ちで食べることが多いです」
谷口「実は私も甘党で、特にソフトクリームが好きなんです。いつもは『今日は頑張ったな』と思った時に食べていますが、本当は、ずっと食べていられるくらい大好きで(笑)」
寺本「わかります。『頑張ったんだから今日は甘いものだろう』という日はありますね」
谷口「おいしいシュークリームの情報を、ぜひ教えてください(笑)」
寺本「じゃあ僕は、おいしいソフトクリームの情報を教えてもらうということで(笑)」
観た人に、同じプレーヤーに、勇気や感動を与えられる存在になりたい
ーオフシーズンに取り組もうと考えている、ご自身の課題はありますか?
谷口「フットサルも同じだと思いますが、アンプティサッカーでも当たり負けしない体をつくることが大切なので、オフには体を大きくすることを意識しています。瞬発力も必要ですから、そちらも並行して鍛えていきたいと思っています。シーズン中、毎試合走り回れるメンタルと体力をつけたいですね」
寺本「僕は左足が利き足なのですが、右足で蹴れないところが今の課題ですね。その分、左でカバーできるようにコントロールの精度を上げるトレーニングや、どんなボールでも左で受けられるような動き直しを意識しています。あとはとにかくケガをしないこと。故障なくシーズンを完走できるように、準備していきたいと思います」
ーお互いの競技において、これからどのような存在になっていきたいかを教えてください。
寺本「僕は、広島エフ・ドゥが『観た人に勇気や感動を与えられる存在になりたい』と思っています。フットサルは、狭いコートの中で激しく当たり合うところや攻守の切り替えが早い競技です。そうしたプレーを観て『感動した』と言っていただけることが僕たちのやりがいですし、チームとしても、もっともっと認知度を上げて頑張っていきたいと思っています」
谷口「今、フットサルやサッカーを頑張っている方たちが、これから先、もしケガをしたり障がいを負ったとしても、『アンプティサッカーという道があるんだ、目標を諦めなくて良いんだ』と気づくヒントになれたら良いなと思います」
ー最後に、応援してくださるみなさんにメッセージをお願いします。
谷口「いつも応援ありがとうございます。特に、ホームグラウンドの北広島町のみなさんには、旬の野菜のおいしさを教えていただいてとても感謝しています。スポーツを通して、広島の食も盛り上げていきたいと思っていますので、これからも応援をよろしくお願いします」
寺本「いつも応援ありがとうございます。フットサルのトップリーグである『Fリーグ』は、他のスポーツに比べてまだまだ認知度も高くありません。たくさんの人に広島エフ・ドゥというチームを知ってもらうために、僕たち選手はSNSを通じて様々な発信をしています。チームとしても、今シーズンは首脳陣、選手の顔ぶれががらりと変わりました。division1昇格を目指して戦っていきますので、新生・広島エフ・ドゥを応援よろしくお願いします」
谷口正典
Masanori Taniguchi
1980年3月31日生、広島県出身。2004年、交通事故により右足大腿部切断し義足での生活が始まる。担当の義肢装具士の紹介で『アンプティサッカー』に出会い、現在は北広島町をホームとする『アフィーレ広島』に所属。東京五輪の開会式ではプラカードベアラーを務めた。アンプティサッカー選手としての活動のほか、国内義足メーカーの開発モデルを務めるなど、その活躍は多岐にわたる。
【アフィーレ広島】
2013年に、中四国初のアンプティサッカーチームを設立。現在は四肢の切断、麻痺を持つ選手が杖を使用して行う『アンプティサッカー』、視覚に障がいのある選手が目隠しをして行う『ブラインドサッカー』、電子車椅子を用いた『電子車椅子サッカー』、歩くことをルールとしてプレーする『ウォーキングフットボール』の4種目のチームを持つ、日本初のインクルーシブフットボールクラブとして活動。
寺本芳希
Yoshiki Teramoto
1997年12月15日生、島根県出身。小学1年からサッカーを始め、吉備国際大2年時に競技フットサルに本格転向。卒業後は広島エフ・ドゥに加入し、FP(フィールドプレーヤー)としてプレー。二度のケガ、リハビリを乗り越え2022年に公式戦デビュー。シーズン8試合に出場し2ゴールをあげる。チームは全日本フットサル選手権・広島県大会で14年連続優勝。『フットサル日本代表に選出される』という目標を掲げ、チームの勝利と競技の認知度アップを目指し活動中。
【広島エフ・ドゥ】
1999年設立、広島をホームタウンとするフットサルチーム。現在は日本フットサルリーグ(通称・Fリーグ)division2で活動している。チームのYouTubeチャンネルで情報配信をするほか、現役選手がアーティストとして楽曲をリリースするなどユニークな取り組みが話題を呼び、2022年1月に『ホーム満員計画』を掲げたプロジェクトでは600枚のチケットが完売。選手自らがSNSを中心とした広報活動を行い、認知度アップとdivision1への昇格に向け挑戦を続けている。
本取材にご協力いただきました「アフィーレ広島」「広島エフ・ドゥ」の関係者の皆様,本当にありがとうございました。