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広島を女子野球大国に。女子選手の未来を指導と環境で照らす

広島県・中四国女子野球アンバサダー 浅井樹
(女子野球アンバサダーに就任した浅井氏(中央))

広島東洋カープベースボールクリニックコーチ、そして広島県・広島県・中四国女子野球アンバサダーの浅井樹(あさいいつき)です。

昨年12月、全日本女子野球連盟により、広島では廿日市市と三次市が「女子野球タウン」として認定されました。

その一環として、私は広島県・中四国女子野球アンバサダーに着任。三次市、廿日市市で行われる女子野球の活動サポートや、女子チームの技術指導など、女子野球を通じたさまざまな活動を行っています。

今回は、私から見た女子野球の魅力、そして広島東洋カープとしての女子野球普及への取り組みについてお話させてください。

急成長する日本の女子野球

(試合観戦する佐伯高校女子硬式野球部)

全国における女子野球の競技人口はここ数年で増加しており、硬式と軟式を合わせた女子野球の競技人口は約2万人を突破。全国の高校女子硬式野球部は40校に達し、今後の発展が多いに期待されています。

私事で恐縮ですが、実はアンバサダーに就任する前まで、女子野球に関する内情はあまり知りませんでした。
 しかし携わっていくなかで、私が考えている以上に女子野球は大変な盛り上がりを見せており、競技人口も含め「野球」を求めている女性たちが多く存在する現実を知りました。また、それをバックアップしようとする体制も、徐々に整いつつあると感じました。

私個人においても、県内の女子野球チームに接し、夏に開催された全国大会の結果などあらゆる情報を収集していく中で、女子野球に関するウエイトが非常に大きくなったと思います。

意欲の高い選手に技術と環境作りをサポート

(マツダスタジアムの始球式に登板した佐伯高校)

女子野球のために自分がやるべきことは何かと考えた時、一番に思い浮かんだのは、野球の指導です。
今年1月には、佐伯高校女子硬式野球部を訪問。オープン戦に招待し、始球式も務めてもらいました。同月に、創部前の山陽高校女子硬式野球部へ。8月には、小学生の広島女子選抜チーム「ガールズ広島」で技術指導を行いました。そして10月、三次市を拠点に活動している中学生チーム「ブレイブガールズ広島」のもとへ赴きました。

これまで私は、男子の指導には多く携わってきましたが、女子はほぼゼロ。目の前の全員が女子という光景に、少し戸惑ったものです。
しかし彼女たちと接していくうちに、「野球を教えてもらうことに飢えている」と感じたのです。あらゆることに興味津々で、とにかく野球を楽しそうにプレーしている姿が印象的でした。

また、野球の関連施設に女性用のトイレや更衣室が設置されていない問題にも、改めて気が付きました。女性自ら意見を述べていただければ、これまで気が付かなかったことが可視化されます。私たちができることは、どんどんサポートしていきたい。改善する余地はたくさんあると思います。

(女子野球選手を指導する浅井アンバサダー)

サッカーでは、日本女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」の誕生を機に「サンフレッチェ広島レジーナ」が発足。女性がどんどん活躍しています。そういった面では、少しばかり、野球は遅れをとっているかもしれません。

プロ野球では、2016年シーズンから危険な衝突プレーを避けるための規定「コリジョンルール」が適用されました。怪我なく安全にプレーするルールは、女性がより野球をやりやすい環境を作り出したと思います。また、これまでの野球像に女性が入ることにより、クリーンなスポーツの代表例として、野球の新しい魅力が伝わることを期待しています。「野球ってこんなに清々しいんだ」と、ファンの方々にこれまでとは違う新しい目線で見ていただくためにも、女子野球が活躍してくれるのではと感じています。

女子選手に、野球を続けられる受け皿を

(マツダスタジアムで実施した女子野球PR活動)

広島県内には、現在7つ※1の女子野球チームがあります。はつかいちサンブレイズ、MSH医療専門学校、広島県立佐伯高等学校、山陽高等学校、ブレイブガールズ広島(中学生)、広島レディース(中学生)、広島レッズ(中学生~社会人)。少数ではありますが、恵まれたことに社会人から中学生までのチームが揃っています。小学生のチームはありませんが、広島県内で約100人※2、男の子に交じってプレーしています。
 

しかし、小学生選抜女子チーム「ガールズ広島」の子どもたちに、中学校に行ったら何をしたいかを聞くと、「陸上、水泳」などの答えが多く、「野球」の二文字が出てきませんでした。なぜかと言うと、彼女たちには野球を続ける受け皿がないのです。県内の中学校に、女子野球部はひとつもありません。意欲溢れる小学生の女子たちに、野球ができる環境を整えるという目標を、球団として掲げています。

※1、2 2021年11月時点での調べによる数値。2022年4月には広陵高等学校に女子硬式野球部を創設予定。

(自分のチームのチラシを配る選手の皆さん)

そのためにまず取り組んだのが、交流の場を提供することです。10月半ばに、県内の女子野球7チームがマツダスタジアムに集結し、女子野球PR活動を行いました。
女子選手同士で横の繋がりを作っていければ、選手間での関わりが活性化し、お互いに刺激も受けるでしょう。先が見えなかった女子野球に新たな目標を見出し、彼女たちがモチベーションを高め、野球への夢を描ける場所が提供できたと思います。

これからも広島県が掲げる「好きじゃけん女子野球 広島県!」というスローガンの下、広島の女子野球の未来のため、地域を元気にし、女性の活躍を促進したいと強く願う各行政と共に、野球教室やイベントなど女子野球普及振興活動を進めていきます。

新しい挑戦で広島を女子野球の聖地に

私が現役の頃、嬉しいことによくファンレターを頂いていました。その中の一通で忘れられないのが「昨日のホームランを見て、僕は手術を受ける気になりました」と難病の子どもさんからの手紙です。ドラマの中の話のようですが、本当に起こった出来事です。

日本においての野球は、文化としても影響力が大きいスポーツです。
プロ野球選手の仕事は、今日やったことが良くも悪くもその日中に知れ渡ります。その代わり、今日やったことが結果として感動を与える仕事だとも思います。

野球だけでなく、サッカー、ラグビー、バレーなどあらゆるスポーツには、人に夢を与える力があります。
きっとこれから、女子野球が一つのスポーツカテゴリーとなり、誰かを励まし、誰かに夢を与える未来が待っているでしょう。

新たな挑戦は、楽しいものです。さまざまな工夫を凝らすことで可能性が広がります。だからこそ、面白い。私は、女子野球という新しい組織作りにワクワクしています。

11月13日、14日には、第7回女子硬式野球西日本大会が三次市の5つの球場で開催されます。
ぜひ皆さんにも、広島県における女子野球の新時代の幕開けともなるこの大会に、注目していただきたいです。
三次市、そして廿日市市が、女子野球の聖地となることを期待し、私自身も、県内各女子チームに野球の楽しさを伝え、技術向上のサポートに尽くしたいと思います。


浅井樹

Itsuki Asai

1989年ドラフト6位で富山商業から広島東洋カープに入団。1993年に1軍初出場を果たすと、年々活躍の場を広げ、2000年には112試合に出場し打率3割、本塁打13本を記録。通算代打安打数歴代3位の154本を放つ等、打席での集中力と勝負強い打撃を武器に17年間活躍を続けた。引退後はカープの2軍打撃コーチに就任、2010年から2012年までは1軍打撃コーチ、2013年から3軍統括コーチを務める。
 2020年よりカープ球団初の専属指導者、ベースボールクリニックコーチに就任。2021年には全日本女子野球連盟より、広島県および中四国のチームの技術指導、女子野球を通じて女性が輝く街づくりをテーマに活動をする、広島県・中四国女子野球アンバサダーに任命。野球の普及振興と同時に少年、少女の育成に力を注ぐ。