Magazines マガジン
-
野球
-
女性スポーツ
-
高校野球
-
取材記事
-
女子野球
山陽高等学校女子硬式野球部の挑戦”第一期生が開拓する高校女子野球選手の道”
2021年4月28日。全国高等学校女子硬式野球連盟と全日本女子野球連盟は、今年7月開催予定の第25回全国高等学校女子硬式野球選手権大会の決勝戦を阪神甲子園球場で開催することを発表した。日本女子野球界にとって新たな歴史が刻まれた瞬間である。
時を同じくして、広島の女子野球界も新たな歴史の一歩を踏み出した。2021年4月、広島市内にある山陽高等学校に女子硬式野球部が創設されたのだ。憧れの舞台である「甲子園」を目指し、白球を追いかける山陽高校女子ナインの挑戦が始まった。
◆県外から野球留学。一期生として刻む歴史の1ページ
女子硬式野球部一期生として入学した真鍋凛まなべりんさん(情報会計科1年)は、香川県出身。これまで続けてきた野球を高校でも続けたいとの強い思いから、女子硬式野球部のある学校への進学を希望している中で、山陽高等学校との出会いがあった。
―香川県出身ということですが、山陽高等学校女子硬式野球部を選んだ理由は?―
中学時代に所属していたクラブチームの中で高校になっても野球を続けたいと思っている友達がいて、その友達と情報交換をしているときに広島県の山陽高等学校に4月から女子硬式野球部ができるって聞いて知りました。香川県には女子硬式野球部のある高校がないので、県外の学校の情報を集めている中で、やっぱり一期生というところに魅力を感じましたね。あとは、施設がきれいで、練習環境が整っているのも理由の一つです。
―女子硬式野球部一期生としてこれからどんなことが楽しみですか?―
私は楽しいことが好きだから、とにかく「楽しい野球」がしたいです!例えば試合中にエラーをした子がいても、周りの子が笑顔で「頑張れ!」って言い合えるチームにしたいです。
―そんな中、一期生のキャプテンに選ばれました。―
選ばれたときはすごく不安でした。自分の地元じゃない「広島」という場所だし、わからないことがいっぱいあって正直怖かったですね。方言もわからなかったです。でも、寮生活だから、先輩たちが助けてくれたんです。学年も部活も関係ない5人一部屋の寮で生活しているんですけど、私の地元の香川県のことを聞いてくれたり、広島はこんなところがあるとか、広島のことを教えてくれたり、すごく優しいんです。
―寮生活は楽しいですか?―
はい!私は賑やかなのが好きなので、大変なこともあるけど、楽しいです!
―寮生活もしながら野球と勉強との両立は大変じゃないですか?―
普段、19時まで練習があるし、寮生活・勉強・野球の3つを充実させることは、正直、大変だなと思うことはあります。野球を頑張るのはもちろんなんですけど、私は情報会計科という学科に通っていて、商業系の勉強をしているので、簿記と電卓の資格が取れるように頑張っています。
―普段「野球ノート」をいつも書いているそうですが、どんなことを書いていますか?―
その日の練習の内容とかを書くんですけど、練習で自分がミスしたことだけを書くのではなくて、このミスを次はどうしていきたいかまで書くように意識しています。でも野球のことだけではなくて、今日の晩御飯のメニューとか今日あった面白かったこととかも書いていて、それに山口先生がコメントを書いてくれます。先生との交換日記みたいな感じです。
―山口先生からもらったコメントで嬉しかったことを教えてください。―
キャプテンになった時のノートに「頼りにしてる」って書いてくださってて、不安だったけど、そのフレーズで頑張ろう!って思えました。
◆諦めず、追いかけ続けた「野球」ができる喜び。
―改めて、これまでの競技歴を教えてください。―
私の父が元々ソフトボールをしていたのがきっかけで、小学校4年生の時から地元の小学校のチームでソフトボールをしていました。中学校では、香川県選抜の女子軟式野球のクラブチームに所属して軟式野球をしていました。
―これまで競技を続けてきた中で大変だったことはありますか?―
特に中学校の時は練習試合をする相手がいなかったことですね。私が中学3年生なのに、中学1年生の男子野球部と試合することも多くて、正直悔しかったですね。今は、県内に女子硬式野球部が2校あって、女子同士で練習試合ができて楽しいです。
―広島県に来て女子野球が盛り上がっていると感じましたか?―
香川県には女子硬式野球部のある学校がないのに、広島には2校もあってすごいなって思いました。
―広島県でこれから女子野球がどうなっていってほしいですか?―
全部の高校に女子硬式野球部を作るのは難しいですけど、県外から進学する子も含めて、中学校で女子野球をしている子たちに、高校進学のタイミングで諦めないようにすることができたらいいなと思ってます。「高校でも野球が続けられるよ!」って伝えていきたいです。
◆楽しく笑顔あふれる野球で日本一へ。
―3年生になった時に、こうなっていたいという目標はありますか?―
目標は大きく「日本一」です!まずは、7月にある選手権(全国高等学校女子硬式野球選手権大会)に向けてチーム一丸で練習を頑張ります!
―その全国高等学校女子硬式野球選手権大会の決勝が甲子園で開催されることになりました。このニュースを聞いた時の率直な感想は?―
やっぱり楽しみですし、やっと女子も甲子園で野球ができるんだ!って思いました。これまでニュースで女子野球部員がマネージャーとして甲子園に立つことはあったけど、選手として甲子園に立つのは全然違うと思います。
―これからのチームとしての目標は?―
夏の選手権に向けて頑張るのはもちろんなんですけど、日頃から感謝の気持ちを忘れず野球に取り組むことっていうのを大事にしています。これまで女子同士でなかなか試合ができなかったり、練習環境が整っていなかったり、そもそも野球を続ける環境が少ない中で、今、自分が野球を続けられているのは、恵まれていると思うんです。だから、私が一番大切にしたいと思っている「感謝」というのをみんなに共有した時に、みんなも共感してくれたので、これを目標にしています。
―最後に、これからの意気込みをお願いします。―
これから何代も続く女子硬式野球部を作っていきたいです。そして夢は大きく「日本一」です!
◆初代監督に就任。女子野球選手の受け皿として。
山陽女子ナインの指導に当たるのは、昨年度まで男子硬式野球部の副部長を務めていた山口遥先生。中学・高校時代にソフトボールを経験していたことから、初代監督に就任した。
野球とソフトボールは似て非なる競技。球の投げ方やノックなど、生徒たちの練習後に自主練習を重ね、日々指導に当たっている。
―県内で2校目の女子硬式野球部の立ち上げに至った経緯は?―
男子硬式野球部の監督が、スカウティングを兼ねて中学生の硬式・軟式野球部の視察に行った際に、チームの中で男子選手と一緒に練習に励んでいる女子選手を見る機会が多かったそうなんです。
その女子選手たちに、今後野球を続けていくか質問すると、高校では野球を続ける環境がないから、野球を辞めてスポーツ自体をやめてしまうか、ソフトボールへ転向すると答える子が多かったそうなんですね。これまで一生懸命頑張って続けてきた野球を、これからも続けたいと思っているのに、続ける環境がないために諦めてしまうのは、本当に残念なことだと思うんです。そういう子供たちが、これからも野球を続けられる環境を作りたいということで、今年度、創部することになりました。
―広島県内で女子野球の盛り上がりを感じますか?―
女子硬式野球部の創部が決まってから、各メディアの方に取り上げて頂いて、たくさん取材していただく機会がありました。これだけ広島で女子野球が盛り上がるということは、野球を続けたいと思っている女子中学生が多くいるということの証明にもなるでしょうし、今後、もっともっと野球を続けたいと思っている子供たちが続けられる環境が整えば良いと思いますね。
―女子硬式野球ならではの指導方法はありますか?―
中学生までは男子選手と一緒に練習してもそこまで体格差がなくできていたと思うんですが、高校生くらいになると、どうしても体格や筋力の違いが出てきますので、男子と同じ練習をすれば強くなるという考えは、まずないです。
今年入部した生徒は、中学生まで軟式野球やソフトボールの経験者が多く、硬式球はそのどちらとも比べ物にならないくらい硬くて重いので、安心・安全に練習する事は常に意識しています。好きな野球を長く続けてもらいたいと思っているので、そこは気を配って練習していますね。
―新チーム立ち上げで楽しみなことも多いと思いますが、これからの目標は?―
チームのスローガンとして掲げているのが、「信・優・孝」という3つの漢字なんです。これには、信じ信じられる人になる、優しい人になる、周りの方に孝行できる人になる、という意味が込められています。試合の勝敗だけを追い求めるのではなく、彼女たちが3年間、野球を通じて、人として成長することが大切だと思っています。
それがあったうえで、選手たちがチームの目標として掲げているのが「日本一」なので、もちろんそこを目指したいです。7月には全国高等学校女子硬式野球選手権大会があるので、まずはその大会を目標に練習しています。
―その全国高等学校女子硬式野球選手権大会の決勝が甲子園で開催されることになりましたね。―
私は学生時代ソフトボールをしていたので、野球に関する知識が十分あるわけではないですが、女性が甲子園の舞台に立つことって、なかなか考えられなかったことだと思うんです。
全国的にもまだまだ女子硬式野球部のある学校が少なく、全校が全国大会に出場できている中で、決勝に進出した2校のみが「甲子園の土を踏む」ことができるというのは、生徒たちにとって、高いモチベーションにつながると思います。女子野球選手にとって、新しい大きな目標ができて嬉しいですね。
―今後、広島で女子野球がどんな存在になってほしいですか?―
試合ができる人数が揃うかどうか不安がある中での創部でしたが、マネージャーを含め14人の生徒が入部してくれました。続ける環境がないから競技から離れてしまった子や、広島で野球をやりたいと思っていても県外に進学していた子供たちが、まだまだたくさんいる証明になったと思いますし、広島県内の他の学校にも女子野球ができる環境が増えて、近いところでお互いを高め合える環境が増えればいいと思います。
山陽高等学校では教育理念として「山陽ドリーム」という合言葉を掲げている。この言葉には、夢に向かって、自分自身の力で未来を切り拓いて行くという意味が込められているそうだ。
長いようで短い高校生活3年間で、彼女たちがこれから切り拓く山陽高等学校女子硬式野球部の道こそが、まさに「山陽ドリーム」であり、県内外で野球を頑張っている女子中学生たちの夢に繋がることだろう。
【山陽高等学校女子硬式野球部】
1907年に創設された広島市西区にある私立高等学校。男子硬式野球部は1990年と1994年に夏の甲子園でベスト4に入るなど、高校野球の名門校して知られる。2011年に男女共学化し、本年4月に女子硬式野球部を創設した。
本取材にご協力いただきました山陽高等学校女子硬式野球部の関係者の皆様、本当にありがとうございました。
(文・インタビュー矢上/写真チーム提供・河本)