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取材記事
「広島」を代表する選手へ”悔しさもプレッシャーもすべてを糧に”
広島市内では桜のつぼみが膨らみ、開花に向けて色づき始めた3月中旬。北広島町にある広島県立加計高等学校芸北分校へ向かう道中には雪が残っており、まだまだ冬の寒さを感じる。
中国山地が近く、豪雪地帯とも言える北広島町・芸北地域で生活する3人は、小さい頃からスキーが身近にあったという。最初はただ滑るだけ、遊び感覚で始めたスキーだが、今では「アルペン」と「クロスカントリー」という競技の日本トップクラスで活躍している。
◆小さい頃からスキーが身近にあるのが当たり前
―アルペン・クロスカントリーを始めたきっかけを教えてください―
柏原さん:廿日市市出身なんですが、小学2年生の時に引っ越してきた当時、周りのみんながスキーをやっていて、とりあえずやってみようと思ったんです。始めたばかりの頃は、スピードも遅くてあんまり楽しくなかったんです(笑)小学校高学年から中学生くらいになってくると、成績が伸びるようになってきて、スキーを楽しめるようになったので、今でも続けています。
西本さん:兄が先にスキーを始めていたんです。一般的には、6歳くらいからスキー板を借りることができるんですけど、僕はもっと早く始めたくて、4歳か5歳くらいから兄と一緒に滑っていましたね。それから自然と競技を始めていました。
山脇さん:僕は3歳くらいから、両親に連れられてスキーをしていました。まだリフトにも乗れない頃なんですけど(笑)なので、小さい僕を両親がリフトに乗らずスキー場の上まで連れて行ってもらって滑るというのを繰り返していました。家がスキー場にめちゃくちゃ近いんですよね(笑)
―お互い初めて会ったときの印象は覚えていますか?―
山脇さん:僕と西本君は幼稚園が同じだったんですけど、僕の方が先に入園していて、無口な子だなーって思ってました(笑)その頃から西本君は運動神経が良くて、その頃からアルペンスキーで西本君に負けてたなっていう印象です(笑)
―それぞれ専門種目の特徴や面白さを教えてください―
柏原さん:私が専門にしているクロスカントリーは、スキー板が細くて軽いんです。ストック※で押すときに脚が運びやすいので、それが楽しいです。あとは、全国大会に出場するたびに県外の選手と交流することができて、それも楽しいです。練習内容を聞いたりして、実際に取り入れたこともあります。
※ストック…スキーで滑走する際にバランスを保持したり、加速したりするために用いる杖のこと。
西本さん:スキーって奥が深いと思うんです。ただスキーを滑るだけなのも楽しいんですけど、競技になると滑走性を高めるためにスキー板にワックスを塗ったりするんです。全国大会になるとサービスマンっていうワックスを塗ってくれる方がついて下さるんですけど、その方とも協力しています。トップクラスの選手は、北日本で練習する選手が多いんですけど、広島からでも全国入賞を狙って頑張れるのが楽しいんです。
山脇さん:スキーは決められたコースを早く滑った人が勝ちっていう単純なルールなんですけど、勝つためには戦略も必要で、西本君が言ったように奥が深いと思うんです。技術要素ももちろん重要なんですけど、それだけでは勝てなくて、その技術を発揮するための身体づくりとか、常に最高のパフォーマンスができるメンタルも必要なんです。「心技体」じゃないですけど、この3要素をいかに高めていくかが面白いです。
◆広島県の選手として活躍したい
―モチベーションを維持できる原動力は?―
西本さん:初めて全国大会で入賞したのが中学1年生の時に出場したジュニアオリンピックの学年別の大会だったんです。その時の1位から3位までが北海道の選手だったんですけど、順番に表彰されていって、「第4位広島県」って言われたときに会場が「おおー!」ってなったんですよ。それがすごい嬉しかったんです。
高校の進学先を考えているときに、北海道の学校へ進学する選択肢もあったんですが、北海道の西本選手と紹介されるよりも「広島県の西本選手」って言われた方がかっこいいじゃないですか。これが僕の原動力ですね。
―進路を決める際、県外の学校への進学も選択肢にあったと思います―
山脇さん:スキーを続けていこうと思ったら、大会の遠征や練習場所が遠いので、その分他の種目より費用が掛かってしまう所はあります。今、遠征の送迎を松野先生がしてくれていたり、地元の方が技術指導をしてくれることもあってサポートが充実しているんです。
西本さん:入学したら、クロスカントリーをする選手が僕一人になるのが分かっていたので、ライバルが近くにいなくなるので、正直迷いました。でも、さっきのモチベーションの話と重なる部分があるんですけど、広島を代表する選手として活躍したい思いが強いですし、兄もここでライバルがいない中、3年間練習して結果を残していたので、僕も同じように頑張りたいと思ったんです。
柏原さん:私は加計芸北か長野県の学校で迷っていたんです。長野県の学校は、ライバルが多くて競い合える環境で、その環境にも惹かれたんですけど、加計芸北は人数が少ない分、コーチから手厚く細かい指導をしてもらえるという点でこの学校に進学しました。あとは、西本君と同じように、私も地元である広島県の選手として活躍したいという思いがあったのも大きいですね。
◆プレッシャーも悔しさも原動力に
―遠征場所が遠く学校生活との両立は大変じゃないですか?―
柏原さん:正直しんどいです…(笑)遠征期間中は教材を送ってもらったりして、空いている時間に勉強してます。
西本さん:もちろんわからない問題もあるので、そういう時は補習授業をお願いして教えてもらっています。
―これまで辛かったこともあったと思いますが、どうやって乗り越えてきましたか?―
柏原さん:今シーズンが一番つらかったんですよね…。昨シーズン全国大会で入賞していたので、そのプレッシャーが大きかったし、なかなか調子が上がらず成績が良くなかったので、結構しんどかったです。他の選手も私と同じような気持ちになっていると思うし、自分も負けてられないなって。途中からは、このプレッシャーがある中でもしっかり成績を出していかないとと思って頑張りました。今までより精神面でも成長できたシーズンでした。
西本さん:今年の夏の練習ですかね。今年は新型コロナウイルス感染症の影響で、入学してすぐに休校になって、みんなと練習ができなかったんです。どちらかというと、一人で黙々と練習するのが好きな方なんですけど、それでもやっぱりみんなと練習したかったですね。メニューは決まっていたんですけど、やっぱり一人だと難しかったですね。北海道に進学していた兄が、今年はコロナの影響で実家にいたので、兄とトレーニングしたりしていました。
山脇さん:今年の県大会で成績が残せなかったのが辛かったですね。みんな「全国大会入賞」を目標に頑張っている中で、僕は県大会で調子がなかなか上がらなくて…。3種目エントリーしたんですけど、1種目は全国大会に出場もできなくて悔しかったですね。その時はスキー辞めたいって思うくらいだったんです。でも小さい頃からずっと頑張ってきたし、両親がそれでも頑張れって応援してくれたので、切り替えることができました。
―気分転換にいつもすることはありますか?―
柏原さん:私、寝ることが好きなんです(笑)なので、オフの日はめっちゃ寝ます(笑)
西本さん:気分転換とは少しずれてしまうかもしれないんですが、中学校まではすべてのことを常に全力で取り組んでいたんですけど、高校に入学してからは、オンオフの切り替えがうまくできるようになってきました(笑)そのおかげで今までよりもスキーに集中できるようになりました。
―今シーズン一番印象に残っている大会は?―
柏原さん:選抜(第33回全国高等学校選抜スキー大会)のノルディック種目の10Kmクラシカル※で14位になったレースと、スプリントで9位に入賞したレースが印象に残っています。元々クラシカルは苦手だったんですが、今年はクラシカルに力を入れて練習してきていたので、今までで一番良い成績が残せました。
※クラシカル…スキー・クロスカントリーの種目の一つ。スキーを履いた脚の平行を保ちながら、左右交互にスキーを滑らせて進みます。左右のスキーを「ハの字」にして、雪面を蹴って進むスケーティング走法などを用いると失格となる。
西本さん:僕は2つあって、1つ目が、今年のインターハイ(第70回全国高等学校スキー大会)です。フリーは、20位以内を目標にしていたんですけど、結果が24位だったんです。今まで全国大会で入賞することが多かったけど、その大会はあまり成績が良くなくて…。この悔しさをバネにもっと頑張らないとって思ったレースです。もう1つが、昨日(3月21日開催)のレースで、アクシデントにみまわれ、スタート直後にストックが壊れてしまったんです。ストックを交換してもらえたんですけど、めちゃくちゃ焦りました。ストックのアクシデントはよくあることなんですけど、僕は初めてで…(笑)いい経験になったなって思います。
山脇さん:僕はインターハイ(第70回全国高等学校スキー大会)ですね。昨年までは複数種目で全国大会に出場していたんですが、今回は1種目だけしか出場できなかったんです。でも逆に、自分が普段出場している種目の他の選手のレースを見たんですけど、やっぱり悔しくて。その悔しさを胸にレースに臨んだのが、ある意味新鮮で刺激になりました。
―最後に今後の意気込みをお願いします。―
柏原さん:今シーズンは全国4位に入賞できて嬉しかったけど、悔しさもあったので、来シーズンは優勝できるように、またトレーニングを頑張っていきたいです。
西本さん:冬の競技だと進路に影響するのは2年生までの成績なので、来シーズンが勝負の年になります。来シーズンもっと良い成績を出せるように、フリーもクラシカルも頑張りたいです。全部で8つ全国大会があるので、8枚賞状を持って帰ってこれるよう頑張ります!
山脇さん:今年の全国大会の成績が全て30番台だったんですけど、来年は10位以内入賞を目指して頑張ります。僕はまだ全国入賞したことがないので、みんなと同じように入賞したいです!
◆スキー部 松野英文監督
―松野先生から見て3人はどんな生徒ですか?―
この子達は学力も優秀なんですよ。今年は特に遠征が多く、冬場はほとんど授業に出席できなかったんです。うちの学校は見込み点がないので、3学期は授業を受けずに期末試験を受けているんです。もちろん振替授業もなくて、そんな中でも上位の成績を維持して優秀なんですよ。やっぱり勉強も一生懸命できないとスキーでも勝てないですね。
赴任して10年、遠征も生徒を連れての県外の試合会場まで運転することもしばしば。競技についてはもちろん、豊富な知識で的確なアドバイスをするなど、生徒たちの成長を見守ってきた。(松野先生は2021年3月末をもって芸北分校を定年退職し、今後はスキー連盟副会長強化本部長兼マスターズ委員長として活躍される。)
北日本に比べると雪が少なく、練習環境が整っているとは言えない。しかし、彼らの活躍の裏には、監督やコーチのサポートがあり、また地元住民からのサポートも厚く、様々な立場の方が生徒たちを応援することが伝統になっているそうだ。
近年は雪不足による大会中止や新型コロナウイルス感染症の影響もあり、大会に参加できないことも多かったが、そんな中でも着実に成長する彼らが、広島の代表として全国の舞台で活躍する姿を楽しみにしたい。
本取材にご協力いただきました
広島県立加計高等学校芸北分校の関係者の皆様、本当にありがとうございました。
(文・インタビュー矢上/写真向畑)