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電気自動車創作に打ち込む未来の工学技術者

 福山大学工学部機械システム工学科

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、老若男女を問わず世界中の人々の生活様式が一変した。もちろん今回、紹介する福山大学の学生たちもその例に漏れず、我々が思い描く華やかなキャンパスライフとは程遠い生活を強いられている。

福山大学工学部機械システム工学科の授業は全体の7割がリモートで、実習科目については許可を得た上で対面授業を継続している。通常のの授業はリモートでも出席が認められるが、自動車整備士のための実習は対面が必要となるからだ。

さまざまな規制がかかるなか、機械システム工学科の授業(EV創作=電気自動車創作)では『全日本EV&ゼロハンカーレース in 府中』(https://npo-ikoru1.jimdo.com/town/ev/)に参加する車両を設計、及び開発。学生自らが手掛けた車両をもとにチームを結成し、過去11年にわたり開催されている同大会でのお手製EVカーのお披露目を目指している。

今年も2月27日(土)、28日(日)の両日に、広島・府中市桜が丘グラウンド多目的広場で第12回大会が開催される。新型コロナ感染防止対策の観点から無観客での実施となるが、大会に向けて学生たちは日々、マシンの前で試行錯誤を繰り返している。

かつて“ものづくりのまち”として栄えた広島県府中市を発祥とする全日本大会を目前に控え、EVカー作りに没頭する福山大学工学科3年の榎本航大(えのもと こうだい)さん、神田裕生(じんでん ひろき)さんに話を聞いた。

優秀な工学的技術者の輩出にも影響を及ぼす新型コロナウイルス

——コロナ禍で大変な状況が続いていますが、大学生活はどのような感じですか?——

榎本さん:自分はオンラインが苦手で直接、人と会いたい方なので、そこはしんどいです。実習をやるために大学に入学したようなものなので、それが減ったのは残念ですし遊びにも行けないので正直、嫌だなと思っています(苦笑)。

(榎本航大が班長を務めるチーム『Ganador(ガナドール)』)

——車の製作があるぶん、他の生徒さんよりは学校に来ることができているのでしょうか?——

榎本さん:そうだと思います。その面ではまだ良かったかなと思っています。

神田さん:僕はオンラインが嫌だなという感覚はないんですけど、実際にやってみないと分からないこともあるので、実習を映像越しで見るのは、そこは難しいというか自分なりに理解できているのかなという不安は正直あります。

——作業をするにも指先の感覚とか絶対にあるでしょうからね。——

榎本さん:それは絶対に間違いないです。映像よりも実際に作業した方が覚えますし、理解もより深まりますから。これまでの2年間と違って正直、3年のときの実習はほぼ何も覚えてないと思います。自分は特に感覚派の人間なので、ビデオで見ても覚えられないですね。

(真剣にインタビューに応える榎本さん)

——話を戻しましょう。やはり車の整備などがやりたくて福山大学への進学を志望されたのですか?——

榎本さん:父さんが何でも自分でやる人なんです。

ガス会社で仕事をしているので、ガスも水道も電気もある程度やりますし、自分のバイクも自分で整備して物も作るという感じなんです。

自分が小さいときからそれを一緒にやっていたので、自分もそれが当たり前みたいな感じなんです。自然と車も好きになって、整備士になりたいと思うようになりました。

——もう迷いなく、という感じですね。——

榎本さん:そうですね。昔はバイクのレーサーになりたいと言っていたんですけど、バイクとか車という路線はズレてないです。

(身振り手振り交え応える神田さん)

神田さん:僕も小学生のころから、将来やるなら自動車整備士がいいなと思っていました。高校生のときは広島に専門学校(広島自動車大学校)があるんですけど、最初はそこを考えていました。

そんなときに福山大学に同じようなコースがあるということを知って、それなら地元の大学に行こうと。実際に入学してみたら自動車だけではなくて、それに関連する熱力学とか座学がいろいろあって大変ですけど、でも興味があることなので頑張れる感じですね。

――EVカー創作はサークルではなく授業という認識で問題ないですよね?——

榎本さん:はい。授業自体はもう終わってるんですけどレースが終わるまでが一つの授業という感じなので、そのままレースに出るまで続けています。

『第12回全日本EV&ゼロハンカーレース in 府中』に出場

——残念ながら2月末の大会が新型コロナの影響で無観客となってしまいました。——

榎本さん:大会を実際に見たことがないので比べることはできないですけど、無観客よりも出場チーム数が少ないのが少し残念です。

——例年は高校、大学、社会人から40を超えるチームが出場しているんですよね?

榎本さん:そうですね。普段は予選もあって、そのあとに決勝がある感じです。ゼロハンカー(手作りのフレームに50㏄未満のエンジンを搭載。ダート走行可能なサスペンションを備えた車両)を含めた全体のエントリー数は分からない(2/15現在、16チーム32台がエントリー)ですけど、EVに参加するのは3チームだけなんです。福山大学の2チームと、笠岡(岡山県立笠岡工業高校)の1チームだけですね。ただ笠岡は強いと聞いているので絶対に勝ちたいです。

——勝つ上では、どのあたりがポイントになってくるのでしょうか?

榎本さん:自分としては車体が軽い方がいいと思うんですけど、自分はアメ車とかが好きなので軽量化は気にせずに補強に補強を重ねて強い車を作りたいです。あとは見た目的にもカッコいいものを作ってきました。

——班の中で意見が分かれたりはしなかったんですか?

榎本さん:最初に各自が理想とするEVカーを設計したんですよ。その中で話し合った結果、自分の設計で作るということになったので、みんな付いてきてくれるという感じです。

神田さん:自分の班の場合は、車の方向性を決める前に班長が決まっていました。その上で僕らは最初からコンセプトも決まっていました。自分たちのコンセプトは、コンパクトで旋回性能が高い車を目指すということです。パッと見は良くも悪くも特徴のない車なんですが、でも逆にそこが特徴でもあるという感じです

——スピードを求めるなら、やはり車体は軽量化しないといけないですよね?——

榎本さん:直線で言えば、たぶん軽さです。ただコーナーを曲がるとなると、ある程度強度がないと車体が捻れたりして、ステアリングの感覚が変わってくるんです。思ったように曲がらないですし、重量配分もフロントが重いと曲がる時にアンダー※が出るのでうまく曲がりません。

どちらを重視してもメリット、デメリットがあるので、そのどちらを取るかですね。直線で勝負するか、コーナーリングで勝負するかで変わってくるので難しいです。

※アンダー…アンダーステアのこと。コーナーを曲がる際、車が思ったほど曲がらず真っ直ぐ進んでしまうような状態のことを表す。

——ちなみに、どこをイメージして設計しました?——

榎本さん:自分の班は最初はホイールベースを短く、そしてコーナーリングに強いというコンセプトでやっていました。でも設計が上手くできていなくて、全然ホイールベースが短くならなかったです。でも「まあいいや」って、とりあえず自分が好きなように設計して、みんながそれに沿って作ってくれたので不満はないですね(笑)。

(福山大学工学部講師の小林正明先生)

神田さん:ちょうど昨日、車が完成したんですけどイメージとしては8割くらいの出来ですね。先生からは細々したことも含めて、いろいろアドバイスをもらっています。それなりにコンパクトで旋回性能が高い車は作れたのかなという印象です。

——コロナ禍ですが、大会を楽しめたらいいですね。——

榎本さん:本当に楽しみたいです。あと当然勝ちたいという気持ちもあるんですけど、車を作るのは今回が初めてなので、自分たちが作った車が走るというだけで感動ですね。自分たちの班はトラブルもあってまだ実際に動かせてないですが、動かすのが楽しみですしそれこそタイヤが付いただけでも嬉しかったので、むちゃくちゃ楽しみです。

神田さん:やるからには勝ちたいなと思います。ただ自分たちで作った車で事故を起こすのは嫌なので、安全性とかも注意しながらケガなく終われたらいいなと思っています。スピードと安全性というのは相反する話でもあるので、そこは難しいですけど。

榎本さん:小林先生がいつも言っているのが「どうせなら楽しんでやって」と。大学にそういうイメージがなかったので、そういう人が大学にいるのは嬉しいです。

遊べないのは仕方ないですけど大学で何か思い出に残ることがしたい

——楽しむことが、そのまま将来にもつながる授業ですからね。——

榎本さん:はい。楽しんでやった方が絶対に身になると思うので、ありがたいです。なので本当に1日でも早くコロナが終息してほしいです。やっぱり遊びに行きたいですもん。2年生までは授業も多かったですけど、やっと大学にも慣れてきて時間もできてきたところでのコロナですから…。

神田さん:僕は家にいてもそれほど苦にならない方ですけど、出るなら出るで遊びたいというタイプなので気持ちは半々ですね。

榎本さん:自分は今まで大学で何もしてないんです。文化祭も参加するだけで何もしてなかったので、3年になったら出店をやりたかったんですよ。2年生のときにやりたかったんですけど思いつくのが遅くてできなかったので「じゃあ3年で」と思っていたらコロナで文化祭自体がなくなってしまいました。

就職するときの面接で「これまで何をしてきましたか?」と聞かれても、何も言えることがないと自分自身で思っていて、プライベートで遊べないのは仕方ないですけど大学で何か思い出に残ることがしたいとずっと思っています。

——では、なおさらこのEV創作があって良かったですね。——

榎本さん:本当にあって良かったです。

神田さん:はい。自分としてもすごく勉強になりますし、EV創作があって本当に良かったと思っています。

——将来の目標は当然、整備士ですか?——

榎本さん:就職もそうですけど、自分としては将来お店を持ちたいと思っています。板金でもなんでも、自分で自由にできるお店を持てたらいいですね。

神田さん:自分は整備士を目指して「神田に任せておけば大丈夫」と言われるような整備士になれたらいいなと思っています。

榎本さん:3台しか出場しないですけど、絶対に1位を取りたいですね。楽しくやりきりたいです!

神田さん:ケガなく終われて、かつ福大で1番、2番が取れたらいいですね。頑張ります!

少子化に加え、現在、深刻な社会問題となっているのが若年層の理科離れ、工作離れだ。そんななか彼らは優秀な工学技術者の減少に歯止めをかけるかのように、“ものづくり”を通じて可能な限りでキャンパスライフを楽しんでいる。

新型コロナの影響で今年は満足のいく技術交流は図れないとしても、2月27日、28日に広島・府中市桜が丘グラウンド多目的広場で開催される『全日本EV&ゼロハンカーレース in 府中』で、彼らが青春を謳歌することを願って止まない。

本取材にご協力いただきました

福山大学の関係者の皆様、本当にありがとうございました。

(文・インタビュー 松浦/写真 矢上、松浦)