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取材記事
F1昇格とホーム満員を目指して。”魂込めてフットサル”
創設は1999年。2011年に中国地方で初めて日本フットサルリーグ(Fリーグ)準会員認定を受け、2018-2019年シーズンより正式にFリーグに参入。年々、競技人口が増え注目度も高まりつつあるフットサルで、広島をホームタウンとして活動するのが今回紹介する広島エフ・ドゥだ。
現在、Fリーグは2部制を導入し、広島エフ・ドゥはディビジョン2のカテゴリーでプレーしている。元フットサル日本代表の村上哲哉監督の下、選手たちはディビジョン1昇格を目指して日々、奮闘中だ。
ところが新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、2020-2021シーズンは開幕時期が9月にまでずれ込んだ。それでも開幕当初は無観客試合として日程を消化し、11月1日からは入場制限付きながら有観客試合が復活。チームも2連勝と波に乗りかけたが、12月19日のトルエーラ柏戦から広島県・広島市「新型コロナ感染拡大防止集中対策」の集中対策期間の延長(令和2年12月12日~令和3年1月17日)を受け、公式戦の開催延期を余儀なくされている。
1月16日の代替試合(柏戦)は入場制限付きで開催されたものの、1月10日に予定されていたポルセイド浜田戦(安佐北区スポーツセンター)は上記の理由により延期。“ホーム満員計画”を掲げる広島エフ・ドゥにとって厳しい状況が続くなか、得点ランキング3位(1/22現在)に位置し、チームの広告塔でもある佐々木諒選手に話を聞いた。
チームに直訴してYouTubeチャンネルを開設
——今季は新型コロナウイルスの影響により開幕が9月にずれ込むなど、大変なシーズンとなっています——
いまホームを満員にするという大きな目標があるんですけど、コロナでその目標達成が遠のいたのは少し残念なところがあります。ただ、いつになるか分からないですけどコロナが終息したときにお客さんに会場に来てもらえるように、今も諦めずに満員にする努力を続けているところです。
——その一環として水田伸明選手とYouTubeチャンネルを開設されたそうですね——
ノブと自分で「何かやりたいね」と話し合う中で、ホーム満員という目標を達成するためにはSNSも大事なので、自分たちが直訴する形で始めさせてもらいました。僕たちが『ドゥーチャンネル』を開設したころには、まだフットサルの選手がYouTubeを始めていない時期だったのでインパクトはあったと思います。ゼロの段階から編集から何から全部自分たちでやって、毎週金曜日に配信しています。
——見た目以上に大変ですよね?——
大変です(苦笑)。僕は基本的に4つやることがあるんです。午前中に練習、昼過ぎからスポンサーの広川グループで仕事、そのあと村上(哲哉)監督がやっているT-DREAMのフットサルスクールでの指導、そしてYouTube。
ただ仕事があるだけで幸せなことですし、子どもたちにフットサルを教えることも楽しいので大丈夫です。スクールは広島グリーンアリーナ、i-fut宇品、高陽体育館、東広島総合運動公園体育館のほか、月曜日は山口県宇部市(ココランド フットサルパーク体育館)にも行って指導しています。
——その合間を縫って地域のスーパーでイベントを開催したり、サンフレッチェ広島の試合会場でイベントブースを開くなど精力的にPR活動も行っていますよね——
積極的にイベントを開催するという部分と、僕たちが最初に取り組んだのは例えば中学校に直接電話をしたり、3000人くらいにDMを送ったり、少しでも知名度を上げる努力を重ねてきました。SNSで「試合を見に来てください」とアピールするだけでは、絶対に会場に足を運んでもらえないですからね。
他の選手も普段は仕事もしながら人生を懸けてフットサルをやっているので、その中でお客さんがガラガラだったらもったいないですし、いま来て下さっているお客さんも選手同様に満員の中で試合を見たいと思いますから、今後も魂を込めて直接、訴えていきたいと思っています。
——ホームの安佐北区スポーツセンター、東区スポーツセンター、東広島運動公園体育館を満員にするために、今後さらに必要になるものは何でしょうか?——
選手、スタッフだけじゃ絶対にできないので、まずはお客さんにも協力していただくと言いますかお客さんの夢にもしたいです。チームを育てていただくではないですけど、お客さんと一体になって夢を実現できればと思いますね。
——どのスポーツも生で見ると面白いです。ただ、生で見るまでのハードルが高いですよね——
そうなんです。会場まで来ていただくということの大変さというのを常々、痛感しています。まだまだ時間はかかると思いますけど、生で見ていただければ絶対に面白さを感じていただく自信もあるので、これからも魂込めて魅力を伝え続けていきたいと思います。
——ここまで懸けるフットサルの魅力とは何でしょうか?——
僕は歌も作ったりしているんですけど、学歴もないしお金もないし3年前に病気で両親も亡くなっちゃって、残っているのはフットサルしかないんですよ。このフットサルで自分のことを知ってもらえないで現役を終えるというのは僕の中ではありえないので、それがハングリー精神となって頑張れているという感じですね。
人生を懸けるだけの魅力がフットサルにはありますし、言葉で表現するのは難しいですけど、それは一度で良いので試合を見ていただければ理解していただける部分もあるのかなと思います。今はマイナーかもしれないですけど「マイナーでもここまでできるんだ」ということを示せばみなさんの勇気にもなると思うので。
——さまざまな思いもあるなか、作曲も手掛けるとはマルチですね——
ノブと自分でアップルミュージックとかSpotifyとかで『CHANGE』という曲をリリースしました。ヒップホップチャートで一瞬、全国で21位くらいに入りました。ホームを満員にする思いをラップで表現しているので、良かったら聴いてみて下さい。
フットサルは基礎知識がなくても楽しんでもらえると思います
——ではチームの現状についても聞かせて下さい。6チームで争う中で現在は3位(4勝1分3敗、1/22現在)。この成績をどう捉えられていますか——
ホーム満員とF1昇格を目標にやってきたんですけど昇格は正直、厳しい状況なので、チームとしては2位に浮上することが目標です。たとえ昇格の芽がなくなったとしても、一つでも上の順位で終わるというのが最低限の目標になりますね。
——Fリーグには二つのカテゴリーがあって、いまはディビジョン2というカテゴリーでプレーしているわけですよね——
はい。サッカーのJ1、J2みたいに、フットサルもF1、F2に分かれています。広島エフ・ドゥはF2に位置していて、F2は6チームでF1は12チーム。
それぞれ2回戦総当たり形式で順位を争っています。昇格の条件はまずはF2で1位になって、F1の最下位との直接対決(入れ替え戦)で勝利すれば昇格という流れです。昇格は1チームのみなので、過酷と言えば過酷なリーグですね。今年はトルエーラ柏が抜けている状況(9戦全勝)ですが、でも自分たちは最後まで諦めていません。
——コロナ禍の影響で調整も難しかったと思います——
そうですね。5月末までチーム活動を自粛したり、練習場所が確保できないときもありました。ただプロである以上、個人でも調整を続けなければダメですし、そこは各自が自覚を持って調整を続けていました。
——満員計画を掲げる上で、どの部分に注目して試合を見てほしいですか?——
フットサルは試合展開が速いので、基礎知識がなくても楽しんでもらえると思います。あと観客席も近いので迫力、臨場感もすごくあります。まずは一度体感していただければと思います。ただ興味がないところから、いきなり生観戦とはならないと思うので、まずはリモートでも配信していますので、そちらを見ていただければと思います。
——ルールが分からないという競技も多いですが、フットサルはサッカーと似ていますしすごく入りやすい競技ですよね——
はい。ルールもシンプルですし、まったくルールが分からないという方が見ても楽しめるスポーツだと思います。
フットサルを頑張ることができる状況で頑張らないのは嘘です
——佐々木選手自身、高校まではサッカー部だと思いますが、どのような経緯でフットサルに転向されたのですか?——
僕は岩手県出身なんですけど冬になると雪が降るので、サッカー部のときからフットサルをやる機会が多かったんです。それで卒業後にステラミーゴいわて花巻の下部組織(stellAmigo/AMV)に入って、そこから本格的に始めました。
——フットサルに転向した直後に東日本大震災がありましたよね——
そのときは僕も岩手にいまして、本当に日本はどうなるのかと思いました。多くの犠牲者が出た中で、僕は生きる道を与えてもらってフットサルをやらせてもらうことができました。その人たちの分も、と言いますか、フットサルを頑張ることができる状況で頑張らないというのは嘘ですよね。
この先も岩手県出身、東北出身の人間として忘れることはないですし、東北出身者の誇りを持ってしっかりフットサルに向かい合っていきたいと思っています。
——東日本大震災も非常に悲しい出来事でしたが、佐々木選手にとってはかつて在籍した湘南ベルマーレの久光重貴さんが逝去されたことに対しての思いも当然あると思います——
自分自身、久光さんと一緒にプレーをしていましたし、癌が発覚したときも直接、連絡をいただきました。本当に久光さんは癌に負けずに最期まで戦い抜きましたし、その姿はフットサル界にとっても勇気になりました。久光さんと過ごした時間は僕の宝ですし、久光さんのフットサルに対する思いを忘れずに自分も気持ちを込めてプレーしていきたいと思います。
——今もコロナで世界中が大変な状況ですが、フットサルができるだけで幸せという気持ちもありますか?——
そうですね。大震災、久光さん、そしてコロナといろいろありますけど、先ほども言ったように僕たちはコロナで活動に制限があるとはいえフットサルをやらせてもらっています。実際、今季のリーグ戦がどうなるか分からないという時期もあったんですけど、フットサルができるというだけで幸せなことですし、いつかコロナが終息したときにみなさんに熱いプレーを見せたいという思いは以前よりもさらに強くなっています。
——延期となっていた柏戦は1月16日に開催されましたが、1月10日に予定されていた浜田戦は再び延期となってしまいました——
試合を見せることができないのは残念ですけど、今はチームや選手のことを知ってもらう下積み期間だと思って今できるベストを尽くしたいと思います。試合が延期になったぶん、みなさん「試合を見たい」「選手に会いたい」という気持ちは高まっていると思いますので、終息したときは一気に突き抜けられるように頑張っていきたいと思います。
——では最後に近い将来の目標と、今後の目標を改めて聞かせて下さい——
近いスパンで言えば2位以上で、長いスパンで言えばやはりホーム満員、F1昇格が目標になりますね。僕個人で言えば得点ランキングで3位なので、1位を狙いたいという気持ちもあります。でも最優先はYouTubeでフットサルの魅力だけではなく歌企画やどっきり企画などをどんどん仕掛けて、まずは選手のことを好きになってもらう、広島エフ・ドゥを周知することが目標になります。YouTubeの『ドゥーチャンネル』も、よろしくお願いします!
練習中とは打って変わって柔和な表情でインタビューに応じてくれた佐々木選手だが、今後のビジョンを語る際の表情は真剣そのものだった。
言葉の端々で出てきたのは「魂を込めて」というキーワード。練習、仕事、指導、情報発信と4足のわらじを履く多忙な毎日を送るなか、ブレることなく広島エフ・ドゥ、ひいてはフットサルの普及に尽力している。
現時点では第8節以降の公式戦は、新型コロナウイルス感染拡大の推移を見ながらの開催となる。コロナ禍という未曾有の状況のなか、広島エフ・ドゥが来るべき日に備えて今日も一心不乱にボールを追い続ける。
三浦知良(横浜FC)らと共にFIFAフットサルW杯へ出場
最後に元フットサル日本代表キャプテンで、現在は監督として広島エフ・ドゥを率いる村上哲哉氏のコメントも掲載。佐々木諒選手と同じく日々、フットサル普及に尽力する熱血漢だ。
「チームとしての最大の目標は、やはり2部制で開催されているFリーグで1年でも早くF1に上がって、トップレベルのフットサルを広島の皆さまにお見せすることです。今季は新型コロナウイルスの影響で選手たちのモチベーションを維持することが難しい状況ですが、SNSを含め応援してくださる方々の声が本当に選手たちのモチベーションにつながっています。医療従事者の方など我々よりも大変な方がたくさんいらっしゃる中で、まずは応援してくださる皆さまにパワーを届けるという気持ちで戦っていきたいと思います。
現在は公式戦が入場制限付きでの開催となっていますが、インターネットで生配信もやっていますので、ぜひご覧になってみてください。下記のリンク先や、広島エフ・ドゥホームページから、すぐにアクセス可能です。そしてコロナが収束したときにはぜひ生観戦していただいて、フットサルのスピード感、臨場感を実感してください。お客さんがお客さんを呼ぶではないですけど、リピーターの方も含めて皆さまにもご協力いただきながらフットサル、広島エフ・ドゥを地域に根づかせていきたいと思います」
村上哲哉
Tetsuya Murakami
1981年9月24日生、山口県出身。174㎝、67㎏。現役時代のポジションはフィクソ。元フットサル日本代表(2009年〜2013年)。2012年にAFCアジア選手権優勝、同年10月にタイで行われたFIFAフットサルW杯へ三浦知良(横浜FC)らと共に出場。日本フットサル界史上初の決勝トーナメント進出を果たした。FIRE FOX、シュライカー大阪などでプレーし、2016-2017年シーズン限りで現役を引退。現在は日本代表の佐藤亮選手と共に、フットサルの認知度向上、地域活性化のサポートなどに取り組む『T-DREAM』を主宰するなど精力的な活動を続けている。
佐々木諒
Ryo Sasaki
1991年12月10日生、岩手県出身。172㎝、65㎏。フィールドプレーヤー。ポジションはアラ。江南義塾盛岡高校を卒業後、ステラミーゴいわて花巻、湘南ベルマーレ、ヴォスクオーレ仙台、ヴィバーレ一関を経て、2018年に広島エフ・ドゥに入団。メインスポンサーである広川グループに勤務。
本取材にご協力いただきました
広島エフ・ドゥの関係者の皆様、本当にありがとうございました。
(文・インタビュー 松浦/写真 矢上、松浦)