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取材記事
「このまち思い」で地域に愛されるチームへ
2016年リオデジャネイロ五輪での、日本バドミントン界史上初の金メダル獲得というニュースは、日本中に歓喜をもたらした。
当時女子ダブルスで世界ランキング1位だった高橋礼華・松友美佐紀ペアが、新たな歴史を作り、それに続くように日本代表選手が世界の舞台で好成績を残し続けている。
新型コロナウイルス感染症の影響により、1年延期となった東京五輪で、複数のメダル獲得が期待される日本のバドミントン。世界で勝つより国内で勝つ方が難しいとさえ言われる中、広島にも全国でも屈指の実力を誇るバドミントン実業団チームがあることを皆さんはご存知だろうか。
1995年に創部された広島ガスバドミントン部は、中国実業団選手権11連覇や全日本実業団選手権で6年連続3位入賞など、輝かしい成績を収めている。
彼女たちは日々、広島ガス株式会社の社員として働きながら、アスリートとしてトレーニングに励んでいるのだが、日頃から地域の方を対象としたバドミントン教室などを通じての地域貢献活動も行っている。
そんな広島ガスバドミントン部に所属し、国内トップレベルで活躍し、また世界大会にも出場している下田菜都美主将に話を伺った。
――普段はどこでどんなお仕事をされてますか?――
広島ガス株式会社の本社でお客様の契約書の整理などの事務作業を行っています。
――仕事と競技を両立するコツは?――
私は会社で社員の皆さんと会って話をすることでリフレッシュできるんです。会社の皆さんがすごく温かくて、練習に向かう前には「練習頑張って!」と声をかけてくださるので、よし頑張ろう!という気持ちになります。オン・オフの切り替えは、昔から得意な方なので、両立することは苦ではありません。
大好きなバドミントンに打ち込むことができるし、会社の皆さんと触れ合うことも楽しいので、本当に恵まれた環境で過ごせています。なので、自分たちのためにプレーするのはもちろんですが、会社の皆さんのためにも試合で勝利し、結果で恩返ししたいと思っています。
――広島ガスバドミントン部でバドミントンを続けようと思ったきっかけは?――
元々広島出身で、小学校までは広島に住んでいて、中学校からは県外の学校へ進学したんですけど、やっぱり最後は広島に戻って来て、恩返しがしたいと思うようになったんです。
そんな時にちょうど、元広島カープの黒田選手が「最後は広島で終わりたい」と話されているテレビを見て、私も最後は広島でプレーしたいって思ったんです。
――広島ガスバドミントン部の特徴は?――
チームに所属している小田選手が少し前に手術したんですけど、入院期間中に残りのメンバーで小田選手への励ましの動画を毎日撮影して送っていたんです。今、所属選手が6名で、選手層は決して厚くはないんですけど、だからこそまとまりが強いのかなと思います。みんなでご飯に行くことも多いですし、団結力は強いですね。個性も強いんですけど(笑)
――チームメイトと遊びに行った場所は?――
最近は、新型コロナウイルス感染症の影響もあって出かけられられないんですけど、それ以前はみんなで宮島に行ったりしていました。
――休日によく行くスポットは?――
私はパンが大好きで、よくパン屋巡りしてます!!最近は広島市安佐南区沼田町にある「カドナ」さんに行ってます!ハード系のパンが多くて、どれもおいしくて、ちょっと遠くて、車でしか行けないんですけど、何回も通っちゃいます(笑)
――県外での生活も長かったですが、戻って来てからの広島の印象は?――
2つあるんですけど、1つ目がそれぞれの区にスポーツセンターがあるので、体を動かす環境が整っていると感じています。他県にも大きい体育館はありますが、広島県みたいに気軽に通えるスポーツセンターは、身近にあまりないんじゃないかと思います。色々な競技観戦もできて、運動したくなったらスポーツセンターで体を動かすこともできるし、スポーツに関して環境が整っている県だなって感じます。
2つ目は、私たちも所属しているトップス広島があることですね。トップス広島に所属しているチームでの交流もあるし、他のチームが頑張っていたら、自分たちも頑張ろう!って思えるので、切磋琢磨できる環境があるのが良いですよね。
――他のチームの選手とどんな交流していますか?――
コカ・コーラレッドスパークスの選手と仲が良くて、休みの日が同じだとよくランチに行ってます!
――そもそもバドミントンを始めたきっかけは?――
4つ上に姉がいるんですけど、姉がダイエット目的で近くにあったバドミントンチームに入っていて、私もついていって始めたのがきっかけですね。小学1年生からです。
――バドミントンの面白さや魅力は?――
小さなコート上で、色んな駆け引きをしているんです。どのコースに打ち込むか、相手の心理を読んだりっていう駆け引きが繰り広げられているんですよ。ついつい相手がいないところを狙いがちなんですけど、わざとボディに打ってみたり、といった心理戦が多くあるスポーツなので、そこも注目して観てもらえたら面白いと思います。
――実際に打つコースっていつ判断していますか?――
本当に打つ瞬間に決めてます。打つ前に相手がどこにいるか確認して空いているところを狙うこともありますし、その前のラリー、またさらに前のラリーを思い出してコースを狙ってます。さっきこっちに打ったから逆を狙うとか、あえて同じコースを狙うとか、駆け引きを常にやっています。
――得意なプレーは?――
バドミントン選手は、大きく分けて攻撃型か守備型かに分かれるんですけど、どちらかというと私は攻撃型なので、相手を動かしながら最後決めにいくプレーですね。後ろからスマッシュを打って、前に返ってきたのを早く触って相手を崩すプレーが得意です。
――海外遠征も参加されていますが違いは?――
外国人選手は背が高いので、日本人選手が打たないようなキレのあるショットがすごいですね。日本人はコツコツ頑張るタイプなんですけど、外国人選手は、少し点差が開くと諦めてくれることが多いんですよ。だから最初のスタートで勢いよく点数を取ると、その後の試合展開が楽になることはありますね。
パワーもありますし、身長が高いので打点の高いショットがくるので、低い打球を返してしまうとすぐにカウンターをとられてしまうので、返球する高さも考えないといけないです。ここも駆け引きですね。
――初めてバドミントンを見る人に楽しんでほしいポイントは?――
やっぱり駆け引きですね!あとはスピード感!バドミントンでは、ラケットでシャトルを打った時の初速が時速300km、400km出るので、新幹線より速いんですよ。そういうスピード感を感じてほしいですね。他競技と比べても、バドミントンのコートは小さくて、シャトルのスピードも速いので、この2つは観てほしいかな。
――広島ガスバドミントン部が広島県でどんなチームになっていきたいですか?――
やっぱり憧れはカープとかサンフレッチェのように、地域に愛されるチームになることですね。広島ガスバドミントン部の試合があるから観に行こう!って思ってもらえるようになりたいです。
今、バドミントンは、日本のトップになれば世界のトップになれるとも言われていて、注目度が増しているので、私たちもその勢いに乗っていきたいですし、広島ガスバドミントン部の応援に行こう!って温かく応援してもらえるチームになりたいです。
あと、今年からOG選手がバドミントン教室を開催しているんですけど、これまでも小学校に年間10回程訪問したりして、バドミントンの普及活動をしてきました。競技の成績を残すことはもちろんなんですけど、地域に貢献できる活動をしっかりやっていきたいですね。バドミントンの楽しさとか素晴らしさを色んな人に知ってもらいたいなって思います。
――バドミントンを頑張っている子供たちへメッセージ――
今年は新型コロナウイルス感染症の影響で、なかなか試合がなくて、満足いく練習ができていない人や練習すらできていない人もいると思います。でも、この期間で「バドミントンが好きだな」という気持ちが、より一層深まった人も多いんじゃないかと思います。その気持ちを忘れずに、この期間にできるトレーニング積んで、次に開催される大会に備えてほしいと思います。
――今後の目標をお願いします。――
今季は試合がなく、試合感覚が薄れてきているんですけど、その中でも今できる準備をしっかりとして、試合が開催されたときに、元気いっぱいの思いっきりのいいプレーで、粘り強く戦って、一戦一戦楽しみたいと思います。
また、広島ガスバドミントン部は、現在、引退した選手が企業に残り、社員として勤務しながらチームをサポートしている。
広島出身ではない選手が、引退後、縁もゆかりもなかった広島に残り、働きたいと思える環境を作っていることが、このチームの最大の魅力なのではないだろうか。
「私たちの環境や気持ちを分かってくれる人が他にも社内にいることが心強いですし、色んな相談もできるので、安心感もあります。すごく頼れる先輩ですね。」
そう下田選手に紹介されたのは、昨季で現役を引退した平井亜紀さん。現役時代はダブルスで活躍し数々の大会で入賞。主将も務め精神面でもチームを支えた。
現在は、広島ガス株式会社総務部広報環境室で勤務し、広報活動を中心にチームをサポートしている平井さんに、今の心境を伺った。
――普段のお仕事は?――
現役時代からバドミントン部のホームページや社内向けのお知らせなどの広報活動をしていたので、その業務は引き続き行っています。あとはバドミントンの講習会で指導をしています。今まではシーズン中に依頼があった講習会は、選手が参加できないので断っていたんですが、今は昨季で引退した私と亀田※1が地域貢献活動の一環として参加しています。
あとは「このまち思い えがお食堂※2」という、広島ガスが事務局をしている子ども食堂を開催していて、その一員として運営に携わっています。今は本当に色々な事にチャレンジさせて頂いていて、SNS運営や広報誌作成、伝票処理などの事務作業もしています。いっぱい任せてもらっているのかな(笑)
※1亀田楓…早稲田大学卒業後広島ガスバドミントン部に入部。主にダブルスで活躍。
――選手を引退してサポート側になった心境は?――
引退してからバドミントンを見るのが楽しくなりました(笑)やっていたからこそ、「あー、○○選手、今こんな気持ちなんだろうな」っていうのが伝わってきますし、何より純粋な気持ちで見れている気がしますね。同じチームですけど、やっぱり勝負になると、相手がチームメイトでも負けたくなかったので、その気持ちがなくなった時に「バドミントンってこんなに楽しいんだな」って思いました。今はプレーするより見る方が楽しいです(笑)
――引退すると地元に戻る選手が多い中、広島ガスバドミントン部に残った理由は?――
正直、入社前は引退したら広島に残る気持ちは全くなかったですね。でも6年間このチームで選手として活動してきた中で、会社や地域の皆さんがすごく温かかったんですね。私が試合で負けたときに、私よりも泣いて悔しがってくれたり、勝ったときは私よりも喜んでくれて…。「私、ここが大好きだな」って思ったんです。だから少しでも恩返しがしたいと思って広島に残ることを決めました。
――現在行っているバドミントン教室について教えてください。――
引退した私と亀田の2人に、OGとして講師やってみないかと声をかけてもらって始めたんです。現役時代だとシーズン中は練習があるので参加できないことが多いんですよね。地域貢献活動にもなるし、広島ガスバドミントン部を知ってもらえるきっかけにも繋がるから、ぜひやりたいっていうことで始めました。本来であれば5月~7月頃と今の時期にする予定にしていたんですが、新型コロナウイルス感染症の影響で前回の教室は中止になってしまって、やっと9月から始めることができました。(今回の教室は全8回で11月12日に終了。)
――指導するときに意識していることは?――
一番はバドミントンが楽しいって思ってもらえるように指導しています。あとは、幅広い年代の方が参加されていて、年齢によってできることが違うので、若い子にはもうちょっとやってみよう!って声をかけたり、年配の方だと様子を見ながらやってくださいっていう呼びかけは絶対に行い、年代ごとに無理のない範囲で取り組んでいただけるように気を付けています。練習内容は2人で相談して決めています。
――指導していて嬉しかったエピソードは?――
少しでも上達してくれることですね。でも、打てるようになることよりも、打てるようになって喜んでいる姿を見るのが嬉しいですね。「それそれ!バドミントンの楽しさそれなんだよなぁ!」って嬉しくなっちゃいます!本当に楽しいですね!今季は新型コロナウイルス感染症の影響で、例年ある講習会なども中止になってしまって、唯一地域の皆さんと触れ合える機会なので、本当に楽しみなんです!南区スポーツセンターでの講習会が全8回なんですけど、やりたいことがいっぱいあるので、練習メニューを8回の中にぎゅってするのが大変です(笑)
――今後やってみたい選手へのサポートは?――
現役時代、頑張っていても結果が出ない時ってあるんですよね。そういう時って頑張りすぎて周りが見えなくなってしまうことが多いと思うんです。でもちょっとした一言が変わるきっかけになったりするんで、悩んでいる姿を見た時は、前向きになれる言葉をかけようと思います。元々みんなと一緒にプレーしていたし、みんながすごく頑張っているのを知っているので、相談役になれるといいなと思って声をかけてます。本格的な打ち合いはできないんですけど、今でも一緒にできる練習に参加したりしているので、一番近くで応援してます!
――広島ガスバドミントン部がこれからどんなチームになってほしいですか?――
地域から愛されるチームになってほしいですね。バドミントンに集中できる環境が整っていて、応援に来てもらったり、取り上げてもらったり、応援に来れなくても温かい言葉をかけてもらえることって当たり前のことではないと思うんです。現役の頃から思っていましたけど、引退してからの方が感じることが多くて、選手みんなも分かっていると思うので、それをパワーに変えてほしいし、「広島ガスバドミントン部ってなんか応援したくなるね!」って思ってもらえたり、何の大会をしていて、結果はどうなのか気にかけてもらえるようなチームになってくれたら嬉しいです。
――広島ガスでのこれからの意気込み――
毎日、選手のみんなと練習を一緒にできるわけではないんですけど、バドミントン部のスタッフとして、広報活動が楽しいと思ってますし、もっとバドミントン部の選手をみんなに知ってもらいたいなっていう気持ちが強いので、広報活動や講習会などの地域貢献活動を通して、広島ガスバドミントン部のプレーの部分だけじゃなくて、こういう活動もしているって知ってもらえる取り組みを進めていきたいです。
インタビュー中、彼女たちから何度も「温かい」という言葉を聞いた。普段一緒に勤務する社員の方、バドミントン教室で出会う地域の方々、またここ「広島」に対して感謝の気持ちをもっていることが伝わってくる。
彼女たちは、この思いがあるからこそ、選手主体のバドミントン教室などの地域貢献活動を積極的に行い、地域の方々により身近な存在になっているのだろう。
より地元に愛されるチームへ。
「このまち思い」で、これからも彼女たちは広島で活躍し続ける。
下田菜都美
Natsumi Shimoda
1993年生まれ。広島県出身。龍谷大学を卒業後、広島ガスバドミントン部に入部する。主にシングルスで活躍し、学生時代から数々の国内大会で優勝。国際大会にも出場する実力者である。
平井亜紀
Aki Hirai
1991年生まれ。香川県出身。専修大学を卒業後、広島ガスバドミントン部へ入部する。主にダブルスで活躍し、学生時代から国内大会で好成績を残す。2020年に現役を引退すると、広報活動を中心にチームをサポートする。
本取材にご協力いただきました
広島ガスバドミントン部の関係者の皆様、本当にありがとうございました。
(文・インタビュー 矢上/写真 向畑)