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夢の舞台へ向かう高校球児の”いま” 

 広島新庄高等学校硬式野球部

広島新庄高等学校硬式野球部

「夏の甲子園中止」。その一報が全国各地を駆け巡ったのは5月下旬だった。日本高校野球連盟は5月20日、今夏の第102回全国高等学校野球選手権大会の中止を正式に決定した。今まで経験したことのない状況においても、球児たちのひたむきな姿勢は変わらなかった。そんな中、6月になり第92回選抜高校野球大会の出場校を対象とした「甲子園高校野球交流試合」の開催が報じられた。今回は、新型コロナウイルス感染症により様々な影響も受けながらも、8月に開催される「甲子園高校野球交流試合」に出場する広島新庄高校硬式野球部の本音に迫った。

広島新庄高等学校は、広島県山県郡北広島町新庄に所在する私立の高校だ。地理的には、広島市と島根県浜田市のちょうど中間あたりに位置している。広島新庄高等学校は、かつて芸北地方を治めていた吉川元春に対する位階贈位を記念して、新庄村に設立された新庄女学校が起源になっており、今年で創立111年を迎える。

広島新庄高等学校硬式野球部と言えば、県内屈指の硬式野球名門校。卒業生にはプロ野球界で活躍する選手もいる。現在、硬式野球部の部員数は80名程度。学校から少し離れたところにある専用のグラウンドや屋内練習施設を活用しながら、日々の練習に励んでいる。

(今年の4月から指揮を執る宇多村監督(中央)、ノックでの指導にも熱が入る)

選手は1日7時間授業の授業を終えてからグラウンドへ移動し、夜8時まで練習を行う。この日はちょうど紅白戦を行うとのこと。実戦形式で、選手たちが試行錯誤しながらプレーする姿には、感嘆するばかり。試合中でも、紅白両軍のベンチによる声出しが、試合により一層の迫力を与える。

(両ベンチからの選手を励ます声が飛び交う)
(選手がグラウンドへ通う自転車。移動もトレーニングの一環)

「広島新庄高等学校は、北広島町の皆さんに支えられていますね」と語るのは、硬式野球部の田津部長。練習や試合などを行う際には、学校に「見に行ってもええんか」、「何時から試合するんか」といった問い合わせを受けることも多いそうだ。

また、地域全体で硬式野球部を応援していこうとする意識もあり、選手の自転車がパンクした時には、近所のガソリンスタンドの方が修理してあげるそう。選手も地域に支えられているという感謝の気持ちを常に意識しており、地域にとってかけがえのないチームになっているようだ。

そんなチームをまとめるのが、3年生の外野手 下(しも)キャプテン。昨年8月、3年生が引退したその日にキャプテンを託された下君が、チームの特徴や球児としての“いま”の想いを語ってくれた。

――新庄高校へ進学を決めた理由は?――

僕は体が大きいほうではなく、打球を飛ばすタイプでもなかったので、足を使うプレーが自分の特徴だと思っています。新庄の野球スタイルは足を活かした機動力野球だったので、自分のプレーにあっていると思って決めました。

――野球を始めたきっかけは?――

僕、元々バスケットボールをしていたんです。祖父と母が指導者をしていて、姉もバスケットボールをしていました。自然とバスケットボールをするようになったんですが、全然楽しくなくて…。小学校の体育館で練習していたんですけど、たまたまグラウンドでソフトボールをやっていて、バスケットボールの練習を抜け出して始めたのがきっかけです。

――あこがれの選手や今後の目標は?――

中日の高橋周平選手に憧れています。今、僕もプロ野球選手を目指しているので、高橋周平選手のようになりたいです。

――プレー中にチームで心掛けていることは?――

チームのモットーである「全力疾走」「大きな声」はチーム全員で取り組んでいます。それを無意識のうちにできるくらい、当たり前のことをしっかりやろうと常にチームで心掛けています。

――チームのキーマンは?――

一人注目を集めるような選手はいませんが、僕たちはとにかく「全員の力」で戦っています。

(真剣なまなざしでインタビューに応える下キャプテン)

――キャプテンに任命されたときの心境は?――

キャプテンに任命された日が、先輩方が夏の選手権の敗退が決まった日だったんです。僕も試合に出ていたので、負けた悔しさが強く、全く次へ切り替えることができませんでした。キャプテンに選ばれるとはまったく思っていなくて、驚きよりこれからやっていけるのかという不安のほうが大きかったです。

――キャプテンとして半年程経った今の心境は?――

半年前に比べて周りをよく見るようになりました。チームのみんなに支えてもらっていると実感しています。

――第102回全国高等学校野球選手権大会が中止になった率直な気持ちは?――

新チームがスタートして、春の選抜高校野球大会出場に向けて練習してきました。出場が決まっていたけれど中止となったこともあり、夏の甲子園を目標に練習に励んでいたので、その時は前が見えない状況でした。この状況なので仕方ないとは思いましたが、やっぱり開催してほしかったです。

――練習自粛期間中のどんなトレーニングをしていたか?――

新庄硬式野球部では、帰省の時などにトレーニング表が配られます。その表で、一日に何のトレーニングをどれだけやったか管理していました。チームメートとテレビ電話しながら一緒にトレーニングもしていました。

――練習自粛期間中のモチベーション維持方法は?――

学校が休校になった初めのころは、まだ夏の甲子園の中止は決まっていなくて、その時はとにかく夏に向けて頑張ろうと声を掛け合っていました。でも夏の大会も中止と聞いたときは目の前が真っ暗で、ほとんどの選手が引退を覚悟しました。小さい頃から目標にしていた甲子園に行くチャンスすらない状況に、正直絶望しました。それでも次は自分たちの進路や将来に向けて頑張ろうと、何とかみんなで切り替えました。

――そんな絶望の中から甲子園交流戦の開催が決まった時の心境は?――

ただただ嬉しかったです。目標にしていた甲子園に行ける喜びを実感しました。

――今回はトーナメントではなく1試合のみ。いつもとは違う状況下での気持ちは?――

通常なら優勝を目指して頑張ろうとチームを鼓舞するんですが、今回は一回限りなので、僕たちのプレースタイルである、守備から流れを作って攻撃につなげる新庄らしい野球をしたいと思っています。

――異例のオンライン抽選について率直な気持ちは?――

そもそも抽選自体やったことがなくて(笑)。とても緊張しています。でも楽しみです。

――絶対に見てほしいプレーは?――

迫田前監督の頃から「堅い守備」を意識してプレーしています。新庄高校の守備力を見てほしいです。

――今甲子園を目指している子どもたちへのメッセージ――

僕たちは練習ができない期間も、その時できる精いっぱいのトレーニングをしてきました。その努力が報われて、こんな状況でも甲子園に行くことができるようになったと思っています。今、満足できる練習ができていない子がほとんどだと思いますが、自分の将来に向けて今できることを頑張ってほしいと思います。

――大会への意気込み――

僕たちはまだ甲子園に行ったことがないので緊張しています。まだ対戦相手もわからないですが、僕たちよりレベルの高いチームと試合できることに喜びを感じて、しっかり僕たちの野球をしたいと思います。

(インタビュー後)

本取材にご協力いただきました新庄高等学校及び硬式野球部の関係者の皆様、本当にありがとうございました。


広島新庄高等学校硬式野球部

Hiroshima Shinjyo High Shcool

プロ野球選手も輩出する広島県内屈指の硬式野球名門校。2014年選抜高等学校野球大会(春の甲子園)に初出場し、翌年には全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)にも初出場する。その後、2016年全国高等学校野球選手権大会に2年連続2回目を果たし、今年は選抜高等学校野球大会へ6年ぶり2回目の出場が決まっていた。


(文・写真 向畑)