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実況席から見る広島のスポーツとは

RCC中国放送アナウンサー 坂上俊次

皆様こんにちは。RCC中国放送でアナウンサーをしております坂上俊次と申します。

広島のスポーツにアナウンサーとして携わって20年あまりとなりますが、現在は今まで誰も経験したことのないWithコロナ時代の真っただ中です。これからの広島のスポーツについて、広島東洋カープやサンフレッチェ広島を先頭にもっともっと良い方向にいくようになればと思い、微力ではありますが皆様へ私の経験をお伝えさせていただきます。

「実況アナウンサー」になるためのトレーニング

(プロ野球実況時)

まず、私が体験してきた広島のスポーツの素晴らしさについてです。

自社のことで恐縮ですが、中国放送のスポーツ実況アナウンサーのレベルはなかなかに高いのではと個人的には感じていて、簡単に放送席に座ることができる状況ではありませんでした。したがって、私も実況アナウンサーになるため、並々ならぬ覚悟が求められました。

入社当初は、プライベートで県内の社会人野球などを見に行き、誰が聞いているわけでもないのに実況の練習をしました。すると、実況をする上で数多くの問題点が浮かんできます。例えば、実況席の近くからはライト線のフライを捕球したのかがよく見えず、うまく喋れない。そのような時は、試合後に審判の方が声を掛けてくれて「審判のジェスチャーを見れば良い」とアドバイスをいただきました。

また、高校野球の予選で実況の練習をしていると、試合をしていないチームの監督がスタンドに視察に来ており、様々な野球の話をしてくれました。こうしたスポーツ関係者との繋がりができるのが地域スポーツならではだと思います。そのお陰もあり、私は少しずつ実況アナウンサーとしての腕を磨いていきました。それはまるで日々トレーニングを欠かさないスポーツ選手と同じだったかもしれません。

球場やスタジアムがあるから、出会いが生まれる

(エディオンスタジアム広島)

私は広島のスポーツは本当に凄いと思っています。野球中継の仕事を始めたのは偶然であって、私は野球少年でも野球選手でもありませんでした。もともとラジオを聴くのが大好きだっただけ、中国放送のみを狙って就職活動したわけでもありません。

ところが、入った放送局が日本一とも言えるほど野球で稼働している局で、とんでもなく厳しい世界でした。ではこの厳しい世界でどうするか、といった時に、先ほどのように練習環境を求めていろんなところに出かけたのです。先々で出会った人が様々な形で助けてくれました。

なかには社会人野球の選手で野球を教えてもらった人が、のちにNPBの、選手になり、現在でもお付き合いが続く人もいます。こういった出会いや繋がりがあるのは「球場」という場所があるからではないでしょうか? 球場やスタジアムがあるから人々が集まり、出会いが生まれる。逆に都市部ではこういった話はなかなか少ないように思います。広島にいたからこそ、良い経験ができたなと振り返る時があります。

カープの元監督・三村敏之氏との出会い

(2018年プロ野球日本シリーズ実況時)

また、人との出会いもアナウンサーに重要な要素です。先述のとおり、中国放送は客観的にもレベルが高いと感じたので、アナウンサーになってからも何か他の人とは違ったことをしなといけないと考えました。

メジャーリーグのアナウンサーを真似て雑談をしたり、話を脱線させたりと、いろいろ試したりして悩んでいた時期に、ある解説者の方が救ってくれました。それはカープの元監督・三村敏之氏で、この方には大変お世話になりました。ご飯に誘っていただいたり、いろいろな方と野球談議をする場所に連れて行ってくれました。

すると、野球についていろいろと解ってくるんです。フィールドの中には駆け引きなど、面白さがいっぱい詰まっています。三村さんから「ちょっと君、見逃してるんじゃないか?」とアドバイスをいただき、それが今でも役に立っています。

ラジオとテレビの違いとは

ここからは、少し私の仕事について詳しくお話します。よく言われるテレビとラジオの実況の違いについてです。これは私も最近気づいたのですが、以前はテレビ中継のアナウンサーは出演者と思っていました。

しかしテレビアナウンサーは決して出演者ではなく、照明係のような存在ではないのでしょうか。例えば、打った人について喋り続ける、つまり焦点をあてるわけです。

一方、打たれた側の悔しがる表情にも目を向けたり、配球を間違えたと話題が変わればバッテリーにも焦点をあてる。選手起用のほうに話が向かえばスポットライトがあたるのはベンチの方になる。だから実況は照明係なのだろうと感じています。

翻ってラジオのアナウンサーはカメラの代わりをしているのではないでしょうか。実況として、どこまでカメラのように描写できるか。また、この場面では自分の「我」を出していいか、などと考えながら仕事をしています。

Withコロナ時代の実況の難しさ

(右:Bリーグ島田慎二チェアマン)

現在はコロナ禍で関わる人数を減らしながら野球中継をしているため、大変な状況です。また、今までは考えもしていなかったのですが「歓声」というものがない。逆に今まで聞こえてこなかったものが聞こえてくる。実況中はその音を1つ1つチョイスしなくてはいけないのです。

ベンチの音をピックアップすべきなのか、セカンドの選手の声出しがよく聞こえてくるため、そちらを拾うべきなのか。「歓声」という塊としての音がないので、1つ1つの音を聞き分けて、音量が少なくても大事な音をピックアップするよう努めています。

ほかにも競技やチームの成り立ち、原理原則は何なのか、などを考えるようになりました。なぜみんなカープが好きなのか? 広島地域の方が好きなのは当然ですが、それ以外の地域のファンの方々はどこが好きかなのかを考えた時、それは『育てて勝つ』というところだろうと感じています。育てて勝つプロセスが好き、なので選手が育ってきている様子がにじむような中継をしたいと心掛けています。

新しい中継を立ち上げる面白さ

(VICTOIRE広島の皆さんと撮影)

ほかにも、スポーツ中継の意外な面白さがあります。それは、これまでテレビやラジオ中継のない競技の中継事業を立ち上げる時で、これは本当にやりがいを感じます。

今から10年以上前ですが、フィールドホッケーの中継企画を立ち上げました。しかし、僕たちは中継をしたことがないため、まったく要領がわからない。するとチームの人が一緒になって「ここにカメラがあったら見やすいんじゃないか?」「カメラをここに置くと危ないよ」といったアドバイスをくれました。ルールが解らなければ選手たちが教本を貸してくれました。

中継でどこまでルールを説明したら面白いかと考えていると、解説には1964年のローマオリンピック出た方が県内にいるというので、一緒に出向いて出演交渉をしました。木原征治さんという方で、木原さんからホッケーのネクタイいただき、一緒に付けて中継をさせていただきました。このように、地域の皆様と一緒になって制作する、中継するというのは本当に楽しい作業です。これも広島×スポーツを考える時に、面白い地域だと考えさせられるエピソードです。

広島は「熱しやすく冷めやすい」は違う

(左:広島ドラゴンフライズ岡崎アンバサダー)

最後に、広島のスポーツファンの人はよく「熱しやすく冷めやすい」体質だと言われていますが、私はそんなことはないと思っています。

むしろ一度暖まれば定着していく体質ではないでしょうか。文字通りカープファンは定着していますし、勝っても負けても一喜一憂するエンターテイメントになっています。この熱が他の競技に広がってほしいと願っており、今はこの点に少しでも貢献できたらと願っています。


坂上俊次

Shunji Sakaue

RCC中国放送アナウンサー

関西学院大学社会学部を卒業後、1999年RCC中国放送に入社。現在は「Eタウンスポーツ」「それ聴け!Veryカープ!」に出演。またテレビ・ラジオでのスポーツ中継を担当している。